アポロ計画<宇宙服関係>

  3 アポロ計画時の宇宙服

 下の写真中、月面活動で使用した金色のバイザー(お面、強力な太陽光をさえぎるために金がコーティングされている。)、青い指先の手袋、青い靴(ルナ・ブーツ)、及び、写真にはないが背中に背負っていた生命維持装置は、もう不要なので、月から帰還する際に、月の周回軌道上で廃棄した月着陸船内に残すことによって廃棄した。

 よって、実際に月から地球に帰還した船外活動用の宇宙服関係品は、記念用としてアポロ11号( 初めての月面上陸 )時の金色のバイザー2つ、及びアポロ17号(最後の月面上陸)での月面を歩いた月用ブーツ(2人分、4足)のみとされている。その他に、アポロ飛行士が着て帰ってきた宇宙服(船外活動服2着(船長用、ルナ・モジュールパイロット 用)、船内宇宙服1着(司令船パイロット用))が、アポロミッションの数だけ保存されている。

船外活動服&船内活動服>アポロ計画では、宇宙飛行士ごとに専用の宇宙服(船外活動服&船内活動服 地球では重さ28kg、背負っている箱は生命維持装置で 重さ54kg )が用意され、手袋については、指先まで長さを測って合わせるとともに、月面は極寒であるので指先までヒーターが設置されていた。これらの宇宙服は、おばちゃん達が作ったハンドメイドだった。

 アポロ計画時の宇宙服を作製したのは、ILC(International Latex Corporation, 現在の社名はILC DOVER)で、昔から現在も女性用の下着を販売しているメーカー。NASAの技術者達は、洋服を作る経験がないために、公募した。裁縫を担当するおばちゃん達は、宇宙服の作製にあたって、気密性を保つために仮縫い用のピン(まち針)は使用せずに、0.4mmの誤差以内で裁縫しなければいけないという高度な製造条件を克服した。ちなみに、裁縫婦の何人かは、服の生地の裏側に、こっそりと自分の名前を記入しており、そのうちの何着かは月に行ったことだろう。

 宇宙服のA7Lという表記はApollo(アポロ用)、モデルナンバー7、ILC社のLから採用した名前。この宇宙服の運用条件はー179℃~+154℃、運用圧力3.70-3.90ポンド/平方インチ、連続運用時間は7時間。この宇宙服は完全に使い捨てで宇宙飛行士1人あたり、本番用、トレーニング用、予備用として3着、バックアップクルー用に本番1着、トレーニング用1着作られ、一回のミッションに合計15着作製された。宇宙服の価格は一着約200万ドル(今の日本の感覚だと16億円以上)かかったと推定されている。

 月面で活動する人(船長、月着陸船飛行士)には船外活動服、月面上で支援する人(月司令船パイロット)には船内活動服が準備された。船外活動服と船内活動服では、仕様が異なり、これらの服は着用するのにルール通りに着て、いちいち読み上げてチェック&機能テストするので同僚の手を借りても2時間かかったという。宇宙服内部は、0.3気圧で動きやすくなっていた。ちなみに1気圧にすると真空中では、風船のようにパンパンに膨らんで動くだけで疲れる。

 また、アポロ8号-10号、アポロ11-13号、アポロ14-17号までは、船外活動服の 仕様が異なり、簡単にいうとアポロ11号-13号では宇宙服の後ろから着るタイプ。アポロ14-17号では前から着るタイプ。透明なバブル型ヘルメットの上に着用するバイザー (金色のお面)も3種類(アポロ8-10号用、11-13号用、14-17号用)あり、経験に学んで短期間で改良が加えられた。船外活動服については、アポロ12号程度までは、船外活動時間が少なかったが、アポロ13号以降では月面の地質調査が目的となり、船外活動時間も大幅に延長されたので、バブルヘルメットをかぶったままで、水やカリウム補給源としてオレンジジュース、また、乾燥フルーツを棒状にしたものを食べられるように工夫されていた。

宇宙服 A7L>アポロ7号~14号で使用された。

A7LB>アポロ15号~17号、スカイラブ計画以降に着用された船外活動服。


 船内活動服は、おおまかにいうと船外活動用の服から左胸部分のバルブ3つが無い形。船外活動用では、左胸側に、上から水冷却用バルブ、非常時用の酸素供給用バルブ(青色)、非常時用の酸素排出用バルブ(赤色)が設置されている。アポロ8-14号までは、司令船パイロットは、宇宙遊泳する必要がなかったので、船内活動服を着ていたが、アポロ15-17号では、月機械船から写真フィルムを取り出すために宇宙遊泳する必要が生じたので、船外活動服(月面活動用とは違う独自タイプ)を着用した。

 司令船パイロット用の船内活動服&月面活動用の船外活動服は、打ち上げ( 高空で急減圧する可能性 )やドッキングなどトラブルの発生しそうな時に着用し、宇宙空間を安定飛行するときは白色つなぎ(ジャンプスーツ)に着替えてリラックスしていた。一方、地球に帰還する際は空気が無くなる可能性はないので船外活動服は着用しない。


3.1 具体的な船外活動服の着かた>アポロ計画の文献を元に、服着用の順番に沿って記述


1 【緊急時ウンチ用おむつ】を穿く>宇宙空間を航行中の船内では、ウンチの場合は、ポリエチレン製の袋をお尻にあてて、ティッシュでお尻を拭いた後は、蓋を閉じ、殺菌剤とウンチとよくもみほぐして混合してから地球に持って帰った。この正式名称は”ジェミニうんちバッグ”という名前だったが、後に通称”アポロうんちバック”と呼ばれるようになった。 初期は、お尻にパイプを突っ込んで吸引するタイプも検討されたが、宇宙飛行士から猛反発を受けて撤回された。

 ただし、船外活動服は、着用するのに同僚の手を借りても2時間かかり、ウンチが間に合わない時も考えられたので、最大で1Lのウンチまで保持できる、おむつ(前部分は開口部)を穿いている。 アポロ宇宙船では大人3人が最大で7日程度狭い宇宙船内で過ごすことから、なるべくウンチが出ないように食料も工夫されていた。また、「誰々の何時のうんちは何グラムだった」というのも随時記録されていた。

2 【尿採取バッグ】を穿く>下の写真で、黄色い帯に見えるのが、おしっこをためておく袋で、飛行士はコンドーム状のゴムをはめており、いつでも、おしっこ出来るようになっていた。その後、おしっこは、船外活動服の右モモ部分のコネクタを通じて、月司令船の機械によって吸引され、毎回、量も計測されてから、その後、月司令船から宇宙空間に放出された。

3 【液体冷却式下着】を着る>下着に相当する服は、極細の柔軟パイプで編んであり、背中に背負った生命維持装置を通じて冷却水を循環させて体から発生する熱を除去して体温調整を行った。月面が寒いからと言って温水が流れているのではなく、月面は真空に近く て伝熱成分がなく体内の熱が発散しないので、これを冷却するために水を循環させた。

4 【生体情報収集用ベルト】を腰にまく>腰部分に、心電図などをとるためのセンサからの情報を集める機器があり、このデータはリアルタイムで、月面から地球に送信されて、宇宙飛行士の身体状況、精神状況をチェック&記録されている。

5 【船外活動服】を着る>服の外側の白い布は、太陽光の輻射熱を避けるためにアルミ箔を内蔵するとともに、月面で微小隕石が直撃して宇宙服に穴が空いても大丈夫なように、20-21層の素材で構成されていた。船外活動用では、左胸側に、上から水循環冷却用のバルブ(青色)、生命支援システムが故障した時の非常時用の酸素供給用バルブ(青色)、非常時用の酸素排出用バルブ(赤色)が設置されており、右胸部分は、上から、電子機器用コネクタ(青色)、生命支援システムとつなぐ酸素供給用バルブ(青色)、酸素+CO2排出用バルブ(赤色)があり、バルブの横には切り替え弁のノブがある。

 さらに、二人で月面活動中に、片方の生命支援システムの水循環システムが故障した時のために、同時に二人、水循環ホースがつなげるようになっている。

6 【首周りの保護膜(ネック・ダム)】を装着>首から下で、何らかの原因で水漏れが起きた場合、顔面まで水が漂ってこないように、首周辺を軽く覆っておくための保護膜。

7 【通信用キャップ(通称、スヌーピーキャップ)】をかぶる>マイクやヘッドフォンが仕込まれてる帽子。スヌーピーのような外観なので通称、スヌーピーキャップ。この帽子からはケーブルが出ており、生体情報収集ベルトと接続して電力を得る。

8 【バブルヘッド(丸い透明なヘルメット)】をかぶって服の首リングと接続>飛行士に酸素&気流を供給するためのヘルメットで、後頭部に酸素を供給するためのダクトが設置されている。ヘルメットはポリカーボネート製で、地上の訓練時には本体の上に防護用としてポリカーボネート製のヘルメットカバーをつけていた。

9 【船外活動用手袋】を装着>手には、コンフォート用手袋(汗などを吸収する手袋)を着用した上で、船外活動用手袋を着用し、船外活動服と金属リングで接合し、気密を保つ。

10 【生命支援装置】を背負う>地上では54kgもある生命支援装置を背負って、リモコンを胸に装着。電気コネクタ、水循環冷却ホース、酸素導入ホース、排気ホースを接続し、気密のチェック。ちなみに、無重量(無重力ではない)空間では、空気の対流がないために、人間の吐いたCO2が顔面に滞留し、窒息の危険があるので、人工的に常に気流の流れを作り出す必要がある。

11 【月面用外部手袋】を装着>月面では、-200℃になる&高速微小隕石がふりそそぐ状態なので、月面用の手袋を特別にはめる。アポロ11号では、手袋の手首側の内側に月面で行う活動のチェックリスト( ここで写真をとる等 )が記されていたが、アポロ12号以降では「やるべき事」が多くなったので、冊子型のチェックリストを装着する方法に変更された。

12 【月面用ブーツ(ルナ・ブーツ)】をはく>-200℃になる月面で活動するためのブーツ。船外活動服と一体となった船内活動用の靴の上からルナ・ブーツをはく。

13 【月面活動用のバイザー(お面)】をかぶる>月面は、ほとんど大気がなく、太陽光(可視光、輻射熱、赤外線、放射線)&高速微小隕石が直接、船外活動中の飛行士に届くので、保護用に「ポリカーボネート製のバイザー」をする。バイザーの前面は、2重の面になっており、一番外側のお面は太陽光の紫外線、赤外線を反射するために金を蒸着しているので金色でマジックミラー状態になっている。その内側は透明な、お面。

ちなみに人工衛星が金色しているのは、金を蒸着している訳ではなく、黄色のカプトン・フィルムに金属アルミニウムを蒸着して何層にも重ねているので金色に見えるだけ。ちなみに、金色の折り紙も、銀色の紙の上に透明な黄色を塗って作られている。ちなみに、SF映画ではガラス製?バイザーが割れるシーンがあるが、実際にはポリカーボネート製の強靭なプラスチック製なので、映画用のように簡単に割れる代物ではない。

14 着用終了

 写真中、月面活動で使用した金色のバイザー(お面。実際に金をコーティングしている)、青い指先の手袋、青い靴(ルナ・ブーツ)、及び、写真にはないが背中に背負っていた生命維持装置は、もう不要なので、月から帰還する際に、月着陸船内に残して廃棄した。よって、実際に月から帰還した宇宙服は、記念用としてアポロ11号(初めての月面上陸)時の金色のバイザー2つ、及びアポロ17号(最後の月面上陸)での月面を歩いた月用ブーツ( 2人分、4足 )のみとされている。

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 下の船外活動用では、左胸側に、上から水冷却用バルブ(フタ付の青色)、酸素供給用バルブ(青色)、酸素排出用バルブ(赤色)が設置されている。これらのバルブはホースが万が一外れないようにダブルロック式になっている。右側上部の青いのは背中の生命維持装置からの電源コネクタ、その下のフタつきの青いバルブ及び赤いバルブは、非常時に同僚と酸素&二酸化炭素排出を共有するためのバルブ。

 靴(青いルナブーツではない)の裏側には、月面の月着陸船内で不用意に飛び跳ねないようにマジックテープが張り付けられている。当時の写真を見るとバブルヘルメットの首リングには、青タイプと赤タイプがあり、船長用と飛行士用で区別されているのか、それとも色の違いで月面で人物を特定するためかとも思うが、アポロ11号ではアームストロング、オルドリンともに赤色のネックリングであり、金色のバイザーをかぶるとネックリング自体見えなくなるので、この色の違いは不明である。

 この写真の船外活動服は精巧なレプリカで、本物(実際に船外活動で使用したもので、実際に使用した汚れ(左足もも部のポケット上部がオレンジ色に変色 )とかほつれがある)はスミソニアン協会の倉庫で厳重に保管されている。


3-1●

宇宙飛行士は公務員>宇宙飛行士は、NASAの職員。イコール公務員なので、宇宙行く時も「宇宙へ出張」となっていた。その出張手当ては当時で1日3ドルだったらしい(今でいうと2万円ぐらい?)。また、月から帰還してハワイ沖に着水し、ハワイに入国した際、税関で税関申告書を書かされ、出発国「月」、持込物 「月の石、ほこり」と記述した書類も残っている。

バズ・ライトイヤーとオルドリン飛行士の関係>ピクサーアニメ映画「トイ・ストーリー」で主人公の一人としてバズ・ライトイヤーという宇宙飛行士が出てくるが、これは2番目に月面を歩いたバズ・オリドリンに由来している。有名な月面に記した足跡の写真、月面での船外活動のほとんどの写真は、オルドリンのものである。ちなみに、「おもちゃのバズ・ライトイヤー」は2008年のスペース・シャトル・ミッションSTS-126のクルーとして宇宙ステーションに行っており、”彼”の夢は実現された。