スペースシャトルの世界を楽しむ

スペースシャトルの世界を楽しむ

   楠本 慶二 著(更新停止、永久掲載)



 スペースシャトルの世界(宇宙、NASA、構造、費用、速度、打ち上げ、技術等)の情報を集約。(宇宙関係本 約62冊から選び出した知識の集合体)。 


目次>----------------------------------------

< スペースシャトル >

0 スペースシャトル・システム

1 スペースシャトル・オービターの名前、建造の経緯

2 スペースシャトル・システムにかかる お金関係

    2.1 宇宙服のあれこれ

3 スペースシャトルの打ち上げ関係

  3.0 打ち上げ前の準備

  3.1 打ち上げに使用する燃料

  3.2 打ち上げ時のエンジンの点火順序とタイミング

  3.3 スペースシャトル・システムの爆破システム

  3.4 スペースシャトルの緊急時脱出システム

4 スペースシャトル・オービターの宇宙空間での状況

5 スペースシャトル・オービターの着陸関係

6 スペースシャトルの構造

    6.1 スペースシャトル・オービターの構造(クルーモジュール、トイレ、コンピュータ、タイヤ、エンジン等)

    6.2 スペースシャトル ・オービター以外の構造、付属施設(固体ロケットブースター、燃料タンク等)

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< スペースシャトル >

0. スペースシャトル・システム


 一般にスペースシャトルと呼ばれている飛行機型のオービター(軌道船)だけでは、宇宙には行けず、外部燃料タンク、固体ロケットブースター、発射台、管制塔、 運搬用トラック(クローラー)、着陸用滑走路、整備棟、部品メーカー、輸送用改造ジャンボジェット機2機、予備のエンジン、世界各地にある緊急着陸用滑走路、等々を含めて「スペースシャトル・システム」と呼ぶ。

 システムの開発費5兆円+建造費1兆円+運行経費12兆円=18兆円で、システムの開発費が30年前の金額であることを考慮すると、累計24兆円以上は使用していると考えられる。


スペースシャトル(オービター)> 大きさは小型旅客機(ボーイング737程度)なみ。重量73トンで15トンの荷物を運ぶ事が出来る。重量・容積でいうと「最大定員81人を詰め込んだ大型路線バス(15トン)」を何度も地球外に運ぶ能力を有している。100回の打ち上げに耐えるように設計された。

 シャトル(オービター)には、メインエンジン3基、軌道操作用エンジン2基、姿勢制御用エンジン44基、形状の異なる約3万4千種類の断熱タイル、約370kmの配線と1060個のバルブ、50個近くの各種タンクがあり、部品の総数は約250万点で、世界で最も複雑で精密、高価、かつ打ち上げ時の衝撃3G以上、マッハ25に100回以上耐える乗り物として設計された。

 形状の異なる約3万4千種類のタイル(当然、タイル個々に設計図を作成し、コンピュータ制御工作機で切り出す。)で覆われており、すべてのタイルに部品番号がついている。

 スペースシャトル1機には約370kmの配線と1060個のバルブがあり、部品の総数は約250万点で 、すべての部品には番号がついていて管理されている。


○スペースシャトルが飛行機ではなく、宇宙船であるという証明> スペースシャトルの内側の水循環式冷却パイプの配管図


 シャトルのコッピットは断熱性 向上のために魔法瓶のような二重構造になっており、この配管は、内部コックピット部分と外部殻の間に設置されている。図では見にくいが、冷却システムの故障を考えて独立して機能する2系統の冷却パイプが並列して設置されており、高温になるであろう窓付近にも配管が設置されている。シャトルの金属 製胴体部品は、金属の一枚板ではなく、ハニカム構造のアルミニウム合金を薄いアルミ合金板でサンドイッチした構造となっている。


1. スペースシャトル・オービターの名前、個々の船の建造の経緯


 米国では歴代のシャトルの船名から考えると、スペースシャトルは飛行機ではなく、”宇宙を航海する船=宇宙船”という感覚で捉えており、歴史上の船、有名な船から名前を採用している。


●エンタープライズ号( Enterprise, 1976年建造、飛行試験機 NASAの型式 OV-101、Orbiter Vehicle-101 )> 宇宙から帰還時の滑空飛行試験用に建造。最初は1976年のアメリカ合衆国発布200年を記念してConstitution(コンスティテューション、意味>憲法)という名前になる予定だったが、人気テレビ番組「スタートレック」の宇宙船の名前をつけてほしいという手紙が多数届いたために、当時のフォード大統領によってエンタープライズ(冒険という意味)と命名。現在はスミソニアン航空宇宙博物館に展示中だが、ニューヨークのイントレピッド海洋航空宇宙博物館に移管予定。


●パスファインダー号( Pathfinder, 1977年建造)> スペースシャトルの扱いに慣れるために作られた実物大の大きさと重さの模型。最初は、粗いハリボテだったが、後年、日本人が100万ドル(当時で約2.5億円)かけて、外観をスペースシャトルそっくりにレストアした際に「パスファインダー」と名づけられ、日本で展示(大スペースシャトル展)されたこともある。


●コロンビア号( Columbia, 1979年建造 OV-102 )> スペースシャトルとして初めて宇宙に行った機体。「コロンビア」とは、大航海時代にアメリカではじめて世界一周した船「コロンビア号」から命名。ちなみに、コロンビアという名前は”アメリカ大陸を発見した”とされるコロンブスの名前を女性風にした名前のつけかたで、コロンビア号を擬人化した際はher(彼女の)と表現され、英語圏では女性の名前らしい。28回目の飛行時に事故で失われた。以下の写真はコロンビア号の初期型であり、つばさ先端部が全面黒耐熱タイルで覆われているのが特徴。また、外部燃料タンクが白色に塗装されているのも初期の特徴。


 この機体は初期は偵察戦闘機SR-71ブラックバードから転用された射出座席2席及び射出用ハッチが装備されていた。しかし、射出座席は打ち上げ時に射出すると固体ロケットブースターの2800℃の炎にさらされる、マッハ3以下の時(=着陸の7分前程度)だけしか使用できない、最大で乗員が7人搭乗しているのに、仲間を残して船長とパイロットだけ逃げ出すことは出来ない等の理由から、中期から射出座席による脱出システムは不採用になった。 開発初期から随時改良が加えられており、機体が事故で失なわれた際の後期型(下写真)は垂直尾翼先端にテレビカメラが設置された関係で垂直尾翼先端の形が違うのが特徴。


累計飛行回数>28回  2003年 STS-107ミッションの帰還時に空中分解 搭乗員7人死亡


●チャレンジャー号( Challenger, 1978年頃建造 OV-099 )> 構造強度試験機として建造され、256本の油圧ジャッキを使用して836ヶ所の荷重ポイントを制御して、11ヶ月に及ぶ連続耐久性試験、耐熱試験に使用された。その後、スペースシャトルに改修されたが、10回目の飛行時に事故で失われた。「チャレンジャー」とは、イギリス海軍の研究用帆船の名前に由来。 英語でチャレンジとは、「出来そうにないけれど、やってみる、挑戦する」という意味。


累計飛行回数>10回  1986年 STS-51-Lミッションの打ち上げ時に空中分解 搭乗員7人死亡


●ディスカバリー号( Discovery, 1983年建造 OV-103 )> 船名は大航海時代にハワイ諸島を発見したクック船長(キャプテン・クック)の地球探査船に由来。既に40回近く飛行している。 チャレンジャー号の事故の後には、24億ドル(日本円の現在の価値にすると約1兆円ぐらい)かけて、茶色の燃料タンクには8ヶ所、メインエンジンには31ヶ所、固体ロケットブースターには155ヶ所、シャトルには220ヶ所の改良が加えられた。さらに、コロンビア号の事故後は、主翼に1秒間に2万個の微小物体との衝突を検知できるセンサー、22個の温度センサー、66個の加速度センサーが設置された。退役後、ディスカバリーはスミソニアン航空宇宙博物館の別館のウドバー・ハジー・センター(バージニア州)で展示される予定。1984年の初飛行以来、2011年の運用終了までの27年間で合計39回、365日l間飛行し、地球を5800回程度回った。

累計飛行回数>39回


●アトランティス号( Atlantis, 1985年建造 OV-104 )> アトランティスとは「大西洋」を意味し、1940年頃に活躍した海洋調査船に由来。アトランティス号以前では、断熱タイルのメンテナンスに非常に手間がかかったため、従来の断熱タイルの他に「耐熱ブランケット(布)」を大量に採用し、結果として大幅に軽量化された。スペースシャトルの初飛行はコロンビア号だったが、一番最後はアトランティス号が飛行し、これまでに累計33回飛行して退役した。アトランティスはケネディ宇宙センター(フロリダ州)に展示。


累計飛行回数>33回


●エンデバー号( Endeavour, 1991年建造 OV-105 )> エンデバーは「努力」という意味で、大航海時代のクック船長の船名に由来し、公立の小・中学生を対象とした一般公募から決定。チャレンジャー号の事故後、建造が検討され、エンタープライズ号の宇宙船への改修が検討されたが、改修費用の点から、ディスカバリー号とアトランティス号の予備部品を利用して建造。合計、25回飛行した後、退役し、今後はカリフォルニア科学センター(ロサンゼルス)に展示される予定。

累計飛行回数>25回

スペースシャトルの合計飛行回数>135回

 当初の計画では、シャトルは1機当たり100回飛行し、2週間に1回の割合で打ち上げる予定だったが、システムが複雑すぎてメンテナンスが大変だった、膨大な維持費がかかった等の理由によって、結果的には、シャトル30年の運用によって打ち上げ回数は135回にとどまった。計135回の打ち上げで、日本人の宇宙飛行士7人を含む計16カ国の355人(のべにすると852人)を宇宙に運んだ一方、1986年のチャレンジャー爆発事故と2003年のコロンビア空中分解で計14人が犠牲となった。


2. スペースシャトル・システムにかかる費用関係

 一般にスペースシャトルと呼ばれている飛行機型のオービター(軌道船)だけでは、宇宙には行けず、外部燃料タンク、固体ロケットブースター、発射台、管制塔、着陸用滑走路、整備棟、部品メーカー、輸送用ジャンボジェット機、予備のエンジン、世界各地にある緊急着陸用滑走路、等々を含めて「スペースシャトル・システム」と呼ぶ。

 最新のスペースシャトル・オービターであるエンデバー号(92年初飛行)は、建造費約 2000億円。スペースシャトル・システムの開発費は30年前の価格で約5兆円。

 シャトルの運用を維持するには、約180億円/月が必要で、ケネディ宇宙センターでは、コロンビア号事故以降は1回の打ち上げにつき、約900億円かかり、7000~9000人が何らかの形で関わってい た。初飛行から計135回の飛行でスペースシャトル計画は終了し、135回X900億円で、これまでの打ち上げで単純に計算しても合計12兆1500億円を使用していることになる。合計5隻の実飛行スペースシャトルの建造でも、2000億円X5=1兆円の建造費がかかっていた。

 システムの開発費5兆円+建造費1兆円+運行経費12兆円=18兆円で、システムの開発費が30年前の金額であることを考慮すると、累計は24兆円以上は使用していると考えられる。

 計画当初は、シャトル1機辺りの生涯飛行回数は100回、年50回の運行(2週間に1回の打ち上げを予定していた)、打ち上げ一回につき30億円の経費を予定(実際には、コロンビア号事故以前は1回の打ち上げに540億円、コロンビア号事故以降は900億円かかった)していたが、機体のメンテナンス及び事故の問題から実際には最も多い年で9回/年にとどまった。

 スペースシャトルの蛍光灯は、打ち上げ時の振動で割れない特注品で、一本数千万円。3万4千個程度ある断熱タイルは昔のデータによると1個1000-5000ドル(10万円から50万円)程度かかっている。別の資料によると、1平方mで10万ドル(=1000-2000万円)。ちなみにアポロ計画の際の大気圏再突入用遮断シールドは1平方m=30万ドル(当時のお金で約1億円)していた。


着陸用車輪のホイールは軽くする必要から、チタン製で値段は1本50万ドル(5000万円~1億円程度)。

 シャトルは、打ち上げ場であるケネディ宇宙スペースセンター付属の滑走路に着陸するのが基本であるが、悪天候の関係で、カリフォルニア州のエドワーズ空軍基地などに着陸した場合、その後、NASAのボーイング747特別機 (2機あり、アメリカン航空と日本航空の中古機を改造したもの)に「おんぶ」して輸送され、この輸送費は約600万ドル(約5億4000万円)かかる。

 宇宙への運搬費から計算すると、コップ1杯(200g?)の水は30-40万円になるらしい。ちなみに、NASA宇宙飛行士の年収は6万5千ドル~(650万円程度)、日本人宇宙飛行士は、シャトルの搭乗が決まる~搭乗後までは特別手当てがついて年収1000万円を超えるといわれる。


2.1 宇宙服のあれこれ、値段>

 スペースシャトル用に米国が開発した船外活動用宇宙服(Extravehicular Mobility Unit: EMU 重さ約120kg)は、宇宙服アセンブリが100万ドル(約9000万円)、生命維持装置が900万ドル(約8億2千万円)で合わせて1,000万ドル(約9億1千万円)。船外活動3回に1回ぐらいの割合で、徹底的に整備される。なお、船外活動用宇宙服は各パーツ毎にいくつものサイズが用意され、宇宙飛行士の体格に合わせて、パーツを交換する。グローブ(手袋)は宇宙飛行士毎に用意され、ひとつ20,000ドル(約180万円) で、最近の宇宙服では宇宙空間で太陽のあたらない場所は氷点下の温度なので、指先が冷えないようにヒーターが内臓されている。

 アポロ計画の際は、宇宙飛行士それぞれの体にあわせて(指先の長さまで合わせた)宇宙服 (地球では船外活動服 28kgだが、宇宙空間に出ると実質0kgになる。)が新調され 、背負っている生命維持装置(4時間分の酸素、通信装置入り)は、地球では約54kgで、合計すると約82kgあった。宇宙服内を単純に1気圧で加圧すると、風船のように均等に加圧され、腕を動かす 足を曲げる事さえ困難になり、事実、アポロ計画での映像を見ると、動きにくかったのでウサギ跳びをして移動しているのが分かる。

アポロ月面活動 ジャーナル(船外活動服 詳細写真編)

 最近では、宇宙服内の気圧を落とす(ただし、宇宙服内の気圧を下げすぎると、潜水病(血液中の窒素が泡となって気化する)になる恐れがあり、(現在の国際宇宙ステーションの船外活動の際は、活動12時間前から、体内の窒素を減らす準備をしている)、服の表面を鎧のように硬い気密構造にする等の特別な工夫が施されている。 また、月面活動では、宇宙服を船内に回収した際に、微細なレゴリス(月面上の微細なチリ)が宇宙船内に入り込んで、宇宙飛行士は花粉症に似た症状を示すとともに、レゴリスが機器類の中に入り込んで故障の原因になることが想定されたので、最近は、宇宙服を船内に持ち込まず、月面車と一体にして必要な時だけ、月面車から宇宙服部分を切り離して使用するという方法も検討されている。

 スペースシャトルの打ち上げ風景で、宇宙飛行士がオレンジ色の服を着ているのをよく見る。一般人は、あれが宇宙服と思っているが、あれは打ち上げ時に、スペースシャトルなどで打ち上げの際に空気漏れが起きた際に、宇宙飛行士が気絶する可能性があるのでその対策のために着ているもので、正式には「ハイ・プレッシャー・スーツ」といい、服の色合いから通称「パンプキンスーツ」とも呼ばれる服である。 初期の頃(STS-4まで)は、黄土色のハイ・プレッシャースーツを着用していたが、STS-5以降は、省略された。しかし、おそらくシャトル計画中盤あたりからオレンジ色のハイ・プレッシャースーツを着用するようになった。

 よって、打ち上げ時と帰還時にのみ着る特別な服であり、オレンジ色は不時着した時に発見されやすいようになっており、背中には簡易パラシュートを背負っている。 スペースシャトルからの脱出といっても、打ち上げ時には宇宙空間まで出て宇宙ステーションまで行くか、帰還時には着陸の1分前程度(スピードがマッハ1以下になる時)しかチャンスがないので、実際に役立つどうかは不明。

 宇宙飛行士が会見の時に着ている青い作業服(フライトスーツ)が、宇宙飛行士としての公式スーツ(初期は水色)であり、「宇宙飛行士として会見する時には必ず着るもの」である。また船外活動時に着る服こそが、本当の宇宙服であり、宇宙空間では強烈な紫外線、日の当たっているところは200℃、日陰は-150℃で、微小な隕石が弾丸のように超 高速で飛んでくる環境なので、それの対策がばっちり施されている。


< 人類初の”人間衛星”になった、宇宙飛行士 Bruce McCandless II >

 地球を回るものを衛星(月も衛星)と呼び、人工の物は人工衛星と呼ぶ。Bruce McCandless II さんは、歴史上初めて、命綱なしで、スペースシャトルから離れて人間衛星となった。しかし、問題が発生すると助けに行けなくなると批判され、その後のミッションでは、このように命綱なしで船外活動することはなくなった。


3. スペースシャトルの打ち上げ関係


3.0 打ち上げ 前の準備、機体の整備>

 シャトルの整備場(オービター点検整備施設(OPF))は、世界で最も複雑であるとともに、清潔な整備場と言われており、シャトルのコックピットの整備の際には、静電気を発生させないように白い服(最近は緑色)に着替える。シャトルの耐熱タイルの修理には187人が関わっており、小さなキズを発見すると、歯科用ドリルを用いて穴を開けて、詰め物をして硬化させ、磨くので、一つの修理には約3時間かかり、約40-60日間かけて修理している。タイルを取り外す際には、基本的には電熱線式のリムーバーを用いて切り出し、取り出したタイル穴にパテを埋めて、穴の形のコピーを作成し、断熱タイルの製造元であるロックウェル(ロックウェル社はボーイング社に吸収されたので、後期はボーイング社)社で、型を元にして、機体のねじれ、熱膨張を計算して3mmのすきまが出来るようにタイルを作製する。

 シャトルをクレーンで吊り下げて、補助ロケットと燃料タンクを取り付けるのに48時間かかり、1兆円以上するシャトル(オービター)本体をクレーン一本で吊り下げることが許されるまでには、クレーン運転者は3-5年の訓練を受ける。

 ロケット、燃料タンクをとりつけたシャトルは、クローラーと呼ばれる移動台に載せられて発射場まで移動し、クローラーの最高スピードは時速1マイル( 1.6km)であり、燃費が1m/Lという世界で最も燃費の悪い乗り物としても有名である。このクローラーの乗員は18人であり、移動に時間がかかるのでポータブルトイレも用意されており、発射台に近づく際にはレーザーを使用して位置あわせを行う。

 発射台では120人の技師が作業に従事しており、整備場から運搬されたシャトルは、最低三週間かけて、外観のチェック、内部の燃料の積み込みが行われる。このように、スペースシャトルの整備にはアメリカ中の12以上の施設、何万人という熟練工が関与していた。


3.1 打ち上げに要する燃料>

 打ち上げ時の最大総重量は約2000トン(シャトル本体78トン+最大荷物25トン=約100トン、外部燃料タンクは756トン、固体ロケットブースターは590トンx2)で、約100トンの本体を打ち上げるために、最初の2分間で固体ロケットブースター中の527x2=1054トンの固体燃料を消費するとと同時に、外部燃料タンク中の約730トンの液体水素と液体酸素を、打ち上げ後、約8分30秒で消費する。

つまり簡単に言うと、約100トンのシャトル+荷物を打ち上げるために、約1800トンの燃料を約8分で消費する。

 打ち上げ時に使用される固体ロケットブースターは過塩素酸アンモニウムと粉末の金属アルミニウムを混合し、合成ゴムで固めたものを燃料としており、打ち上げから約2分間燃焼し、アルミ粉末の燃焼により、ブースターからは大量の白煙が噴出する。

 ちなみに、アポロ計画で使用したサターンVロケットの第一段ロケットの燃料はケロシン(簡単にいうと灯油)で、旅客機のジェットエンジンの燃料もケロシン。

 これら燃料の違いに由来して、シャトル本体のエンジンの炎は青白く、一方、ブースターの燃焼炎は白く見える。大量の液体水素を使用して危険なので燃料供給係は、自ら志願して業務にあたっており、発射台の下には、アポロ計画時代に作成された緊急脱出用のカゴで避難できる分厚いコンクリートで出来た部屋が用意されている。

 固体ロケットブースターの推力は1本1200トン、メインエンジンの最大推力は1個200トンなので、打ち上げ時の推力は、1200*2+200*3=3000トン。つまり打ち上げ時には2000トンの機体を3000トンの推力で打ち上げていることになる。


3.2 打ち上げ時のエンジンの点火順序とタイミング>

 スペースシャトルの発射に関しては、発射の4-5時間前に統合宇宙司令部の宇宙監視網が宇宙を漂っている3500万個にも及ぶスペースデブリの軌道を解析し、スペースシャトルの軌道近くを通過する物体がないことを確認している。

 シャトルは固体ロケットブースター下部に各4本、合計8本の爆発ボルトで固定されており、発射の16秒前に、騒音防御装置が作動し、打ち上げ時の固体ロケットブースターからの音響振動、衝撃波からシャトルを守るため、及び打ち上げ場周辺への騒音を抑えるために、発射台や固体ロケットブースターの排気ガスの誘導坑に1100立方メートルの水を霧状にして放出する。1100立方メートルは110万リットル、これは25mプールの容積が35万リットルなので、25mプールにして約3個分の水を16秒程度で放出する。

 離陸の6.60秒前にシャトル本体のメインエンジンNo.3が点火される。次に、6.48秒前にメインエンジンNo.2、次に6.36秒前に中央のメインエンジンがコンピュータによって点火される。これは、シャトルの後方から見て右、左、中央の順番。シャトルのメインエンジンは、液体燃料を使用しているので、エンジンに異常があればコンピュータが燃料をカットして離陸を中止させる。メインエンジンの燃焼に異常が無い場合は、コンピュータが出力を100%にした後、固体ロケットブースターに点火する。なぜ、離陸の6.6秒前にメインエンジンを点火するかといえば、固体ロケットブースターは固体燃料を使用しているため、点火したらその後、火を消すことが出来ないためである。また、メインエンジンはシャトル(オービター+外部燃料タンク+固体ロケットブースター)の重心から外れた位置にあるため、メインエンジンの点火による巨大推力の発生によって、シャトル全体がわずかに傾き(外部燃料タンク先端で60cm程度)、この傾きが自然に垂直に戻るのに6.6秒かかるためである。

 コンピュータがメインエンジンの推力が所定のレベルに達したことを確認したら、固体ロケットブースターに点火信号が送られ、固体ロケットブースターの点火の直前に固体ロケットブースターを発射台に固定していた8本のボルトを爆破してボルトが開放され、スペースシャトルは発進する。

 打ち上げに際しては、コンピュータの「打ち上げシーケンスプログラム」によって淡々と進められるため、打ち上げセンターには「発射ボタン」というものは存在しない。よって、搭乗員が行う操作はほとんどなく、非常事態の発生時の操作に備えている。

 スペースシャトルのメインエンジンはエンジンの推力を67%から109%まで変えることができる。発射時には大きな力が必要なので104%の推力を出すが、スピードが出るにつれ、空気抵抗が大きくなるので、打上げから約28秒後に機体にかかる最大動圧(空気抵抗)を抑えるため67%まで推力を絞る。また、ある程度空気が薄くなって空気抵抗が小さくなれば、加速しても大丈夫なので約60秒後に再び推力は104%に戻す。ただ、スペースシャトルの場合、最大加速度は3G以下となっているため、空気抵抗がなくなって、燃料を使い果たして機体が軽くなり、3Gを越えそうになる前に推力は再び徐々に絞りこんでいく。最大推力が109%と中途半端なのは、エンジンが改良されて推力が増加したので、設計段階の推力から換算して使用しているため。

 打ち上げ時の映像で、メインエンジンの先で、火花が散っている映像があるが、あれは、気化して漏れた水素ガスが大爆発を起こす前に、微小な火花で、燃焼させるためである。


3.3 スペースシャトル・システムの爆破システム>

 米国連邦法によって、ロケット事故から民間人を守るためにスペースシャトルを含むすべてのロケットには最初から爆薬が設置されている。これは打ち上げ時にスペースシャトルのコントロールが効かなくなって、市街地へ墜落することを防ぐためであり、打ち上げ場の安全主任(Range Safety)である空軍将校が、打ち上げ時のすべての情報を一方的に監視しながら(=飛行管制センターとの情報のやりとりはしない)、必要に応じて遠隔操作によって爆破できるようになっている。具体的には、外部燃料タンクと両方の固体ロケットブースター内部に爆薬が設置されており、このシステムを作動した場合には、シャトルのコックピットに「爆破システム作動」の表示が出た直後に爆破するようになっている。確実に爆破出来るようにシステムは二重に設置されており、片方が故障しても、もう片方の指令で実行できるようになっている。

 打ち上げ場安全主任は、地上近くでシャトルを爆破した場合、固体ロケットブースター中の527x2=1054トンの固体燃料と、外部燃料タンク中の約730トンの液体水素が爆発することになり、爆風及び衝撃波で打ち上げ場近くの民間人も事故に巻き込むことになるので、大気の状態によっては打ち上げを中止させる権限も有している。

 空軍将校は、「宇宙飛行士の命を奪う可能性の高い爆破指令をためらわない」ように宇宙飛行士主催の行事には一切参加しないという慣例になっている。

 これまでの130回近い打ち上げにおいて、このシステムは一度だけ使用されたことがあり、それはチャレンジャー号爆発の時に制御不能になった固体ロケットブースターが近隣地域に落下するのを防ぐために作動された。

 爆破システムの存在は、当然、宇宙飛行士にも知らされており、宇宙飛行士は搭乗前に遺書を準備している。打ち上げ時には、家族(配偶者、子まで)が発射場の特等席で打ち上げを見守るが、その際には家族と親しい宇宙飛行士が寄り添い、打ち上げ失敗時の精神的ケアを担当することになっている。


詳細は、スペースシャトル・クルー・オペレーションマニュアル(フライトマニュアル 1161ページ PDF 無料)の「1-4-7ページ」を参照。


3.4 スペースシャトルの緊急時脱出システム>


打ち上げ時の脱出> 打ち上げ準備中にトラブルが発生した場合、宇宙飛行士達は、自力でスペースシャトルから脱出し、緊急脱出用のカゴに乗ってケーブルカーのように打ち上げ台から脱出出来るようになっており (この風景は映画「メン・イン・ブラック3」の後半で見られる)、そのために、スペースシャトルのドアは内側から簡単に開くように出来ている。これは、内側のドアが開きにくくて、死亡者が出たアポロ1号事故の反省に基づいて設計されたためであるが、その後、スペースシャトルでの宇宙飛行中にドアの取っ手に興味を示した飛行士 (某国の王子)がいたことから(宇宙飛行中にドアが開くと全員死亡する。)、シャトル運用中期以降は、取っ手部分に船長が飛行中にカギをかけられるように変更された。

 実飛行一号機のコロンビア号には、初期は偵察戦闘機SR-71ブラックバードから転用された射出座席2席及び射出用ハッチが装備されていた。しかし、射出座席は打ち上げ後、2分以内なら射出できる設計になっていたが、2分以上立つと脱出高度が高くなりすぎ、速度も高くなりすぎる上、射出すると固体ロケットブースターの2800℃の炎にさらされる、マッハ3以下の時(=着陸の7分前程度)だけしか使用できない、最大で乗員が7人搭乗しているのに、仲間を残して船長とパイロットだけ逃げ出すことは出来ない等の理由から、中期から射出座席による脱出システムは不採用になった。


着陸時の脱出>


空中脱出> シャトル運用中期以降は着陸時にドア部分からパラシュートで脱出出来るように「脱出バー」が設置された。この脱出バーについては、映画「スペース ・カウボーイ」の後半で脱出風景を見ることが出来る。


海上での脱出> 旅客機と同じように滑り台式のゴムボートがあり、出入り口ハッチから脱出する。詳細は、スペースシャトル・クルー・オペレーションマニュアル(フライトマニュアル 1161ページ PDF 無料)の「2-10-14ページ」を参照。


着陸後の脱出> 本来の滑走路以外に不時着し、出入り口ハッチから脱出できない場合には、コックピット上部の窓から脱出出来るようになっている。この際、機体外部 (上部)は大気圏再突入時の加熱によってまだ200-300℃であるので、脱出に際しては、専用の耐熱毛布を機体外面にかけてから脱出するようになっている。

詳細は、スペースシャトル・クルー・オペレーションマニュアル(フライトマニュアル 1161ページ PDF 無料)の「2-10-18ページ」を参照。


3.5 スペースシャトルのその他>

 スペースシャトルが、地球周回軌道に乗るまでの時間は約8.5分、一回のフライトで翼を使用する時間は着陸時の5分間。基本は宇宙に2週間滞在するようになっており、宇宙空間で機体に深刻なトラブルが生じた場合は、予備のシャトルが救出に行く体制が整えられていた。


4. スペースシャトル・オービターの宇宙空間での状況

 宇宙空間では、太陽光の当たる場所は表面温度が100℃以上、影の部分は-150℃になるため、シャトルが軌道上にいる間は、貨物庫(ペイロードベ イ)のハッチを開けて、機内に熱がこもらないようにしている。またペイロードベイハッチの裏側には、銀色のラジエーターが装備されており、燃料電池から発生する熱を宇宙空間に放出している。よって、写真でよく見る「宇宙で貨物庫を開けている姿」が宇宙空間に滞在している時の本来の姿である。

 スペースシャトルの同じ面を長時間太陽方向に向けていると、その部分の温度が上昇し(その反対面は低温になって)熱的にひずむので、このような姿勢は長時間は取れない。従って、実験要求などの理由がなければ、基本的には、地球に背を向けた状態で飛行する。

 NASAの定義では、地球からの高度100km以上を宇宙と定義しており、高度100km以上に到達した人を宇宙飛行士と呼ぶ。国際宇宙ステーションは地上400kmを飛行している。ちなみに、地球から月までの距離は約38万km、スペースシャトルが高度100-400kmを周回するのに対して、アポロ計画では、月まで片道3日かけてスペースシャトルの3800倍の距離を往復した。

 スペースシャトル、国際宇宙ステーション内が無重力状態なのは、地球重力の届かない高度を飛行している訳ではなく、実際には宇宙ステーションの高度でも、地球の9割の引力が働いている。しかし、猛烈なスピードで地球を回転することで遠心力が働き、これが引力とつりあっていることで、無重量状態となっており、周回速度が下がると重力に負けて地球に落下を始める。

 < スペースデブリ問題 > 西暦2000年段階で、人類は約4500個の人工衛星を打ち上げており、宇宙には9000個以上の、人工物体が浮遊しており、1ミリメートルから10センチメートルの破片(デブリ)は3500万個は地球周辺を漂っているという。そのために、スペースシャトルのコックピットの窓は、ほとんど毎回、新品に交換されているという。中型のデブリの位置情報はNASAがすべて把握しており、スペースシャトルの飛行中は、デブリがスペースシャトルの軌道に近づく場合は、警報が出され、衝突が予測される場合には、シャトルの軌道を変更するように決まっている。


5. スペースシャトル・オービターの着陸関係

 シャトルは、打ち上げ場であるケネディ宇宙スペースセンター付属の滑走路に着陸するのが基本であるが、悪天候の関係で、カリフォルニア州のエドワーズ空軍基地などに着陸した場合には、その後、NASAのボーイング747特別機に「おんぶ 、ピギー・バック」して輸送され、この輸送費は約600万ドル(約5億4000万円)かかる。よって、緊急の場合を除き、出来るだけ、ケネディ宇宙スペースセンターに着陸するように努めている。

 シャトルは大気圏飛行用エンジンがないので、着陸のやり直しは出来ず、飛行場の天候を確かめて着陸する飛行場の近くまで接近した後に、”隕石が落下するように”急速に高度を下げる。着陸のやり直しは出来ないので、オーバーランに備えてケネディ宇宙センターには世界最長(オーバーラン部分も含めると全長5.2km)の滑走路が整備されている。大規模国際空港の滑走路が全長4km程度であることを考えると 、かなり長いことが分かる。また、シャトルの高速着陸に耐えるために、コンクリート舗装は厚さ40cm、平坦性も100mで1.6mmの精度で建造されている。

地球周回軌道では、飛行高度に応じて機体の遠心力と地球の重力がつりあう速度があり、この速度を維持することによって、地球を周回できる。

 地球への帰還は約1時間前から準備が始まり、約30分かけて各種システムの点検が行われる。その後、姿勢制御システムを用いて帰還用の姿勢 (進行方向とは逆方向、かつ船底が地球方向になる側)に変更した後、周回軌道の高度122km上でOMS( Orbiter Maneuvering System )エンジンを点火して、シャトルの速度を落とした後、機首を進行方向に変更すると、その後、自然に地球の重力で落下が始まる。

 この時、着陸30分前、マッハ25程度、グライドスロープ45度(1m進む間に1m降下するということ)であり、機首から大気中に突入すると、風圧による空中分解及び大気との摩擦熱(正確には摩擦ではなく、空気を高速で圧縮した際に発生する熱、及び高熱によるプラズマの発生)によって機体表面温度が上がり過ぎるために、向かい角32度(40度の説もある)になるように自動的に機首を上げるようになっている。向かい角32度というのは、機体下面全体で空気を均一に受けることによって落下速度及び摩擦熱の増加を防ぐための角度である。

 大気圏に突入すると高度80kmから50kmまでは大気によって加熱され機首と翼の前面(シャトルで灰色の部分)は最高で1600℃以上になる。最高温度になるのは高度70kmで着陸約20分前。高度が下がるにつれて大気濃度が上がりラダーやエレボンが効くようになってくるので、さらに速度を落とすためにマッハ2.5程度の速度で最大80度に傾いて自動的にS字ターンを行う。この時のグライドスロープは30度(約2m進む間に1m降下する)。

 着陸地点から距離40km、高度15kmになるとシャトルは滑走路に進入するためのトラフィックパターン (高度に応じて、何回も旋回する)に入り、着陸1分30秒前に音速以下の速度になり(この際、衝撃波が発生し、連続して2回”ドン”という音がフロリダ周辺に響き渡る)、20度のグライドスロープ(=下降割合、下降率。 ”垂直落下は90度のグライドスロープということになる。”)にしたがって滑走路に進入してくる。ちなみに、通常の旅客機のグライドスロープは約2.5度に設定されており、旅客機の10倍程度の降下率で落下してくることになる。

 時速430kmで車輪が下ろされ、約346kmで着陸(ジェット旅客機は約260km)した後、待機していた防毒作業班が、機体から有毒な燃料であるヒドラジンを抜き取り、 着陸直後は白い部分は200℃であるので機体表面の温度が宇宙飛行士が外に出られる温度になるまで約1時間待機する。その後、さらに温度が下がるまで約4時間大気中で放置された後に整備塔に移動する。


6. スペースシャトルの構造


6.1 スペースシャトル・オービターの構造

全体の寸法> 一般にスペースシャトルと呼ばれているオービター(飛行機の形をしたもの)の全長は37m、幅は23.7mで、旅客機で言うとボーイング737-800型程度、エアバスA320程度の大きさ。貨物室(ペイロードベイ)の寸法は、直径4.6m、長さ18mで、最大約24トンの荷物を収容可能。一般的な大型路線バスの寸法は、全長10m、高さ3.1m、重量10トン、最高でお客74人を乗せた場合は重量14.4トンであるので、シャトルは満員の路線バスを余裕で大気圏外に運ぶ能力がある。 100回の打ち上げに耐えるように設計されており、後期型シャトルでは、宇宙飛行士7人が最大30日間生活出来るように改造されていた。

窓(ウインドウ)> スペースシャトルには、コックピット前方に6枚、天井部分に2枚、後部フライトデッキ(ペイロードベイ側)に2枚、サイドハッチの小窓1枚の計11枚の窓がある。3層のガラスが基本であるが、後部フライトデッキは2層。また場所、層により厚さは異なる。

 一番厚みがあるのは、コックピット前方の6枚で、外側の層は、厚さ1.58cm、中央層3.3cm、内側の窓ガラスは1.65cm。この3枚は役割が異なり、外側は427℃までの高温に耐えると共に、スペースデブリ(小さい隕石や、衛星の破片など)衝突に耐えるように強化されている。一番内側のガラスは与圧を保つためのガラス。これらのガラスには反射防止コーティングや赤外線カットコーティングなども施されている。ガラスの材質は、一番内側がアルミシリカガラス、残りのガラスは、溶融シリカガラスを使用。これだけ厚みのあるガラスだが、操縦や地球観測時に支障をきたさないように非常に透過性が良いガラスとなっている。

 また、宇宙から帰還するたびに、ガラス表面を丹念に調べ、髪の毛1本のキズでもあれば事故の原因になるので交換して おり、実際にはほとんぼ毎回、スペースデブリの衝突の関係で外部ガラスは新品に交換されていた。さらに全ての窓には個々の窓ガラスを囲むようにして冷却水用のパイプが独立して(故障しても大丈夫ないように)2系統設置されており、循環水で窓枠を冷却している。

シャトルには雨用のワイパーがなく、作業中にガラスをキズつけないように打ち上げ直前まで専用のカバーで覆っている。

 外観からは分からないが、スペースシャトルのコックピット部分は断熱性を増加させるために魔法瓶のような入れ子構造になっており、そのせいでフロントガラス部分からの眺めは良好ではなく、宇宙飛行士の話によると、コックピット上部の天窓やペイロード側の窓の方が宇宙空間がよく見えるという。 また、強度的問題、宇宙からの強烈な紫外線、放射線の影響をさけるために、窓は意図的に小さく作られている。


耐熱部品、断熱タイル、機体との接着方法、断熱ブランケット>


断熱タイル> 基本的には最小限の補修で100回の飛行に耐えるように設計されたが、実際には微小なキズが発見されたタイルは毎回取り替えることになった。


白いタイル> LRSIタイル( 低温再使用可能表面断熱タイル ) ( Low-Temperature Reusable Surface Insulation tiles )

 スペースシャトルの白いタイル部分は石英ガラスファイバー(酸化ケイ素のファイバー)の三次元構造からなる「断熱タイル(=耐熱タイルではない)」で構成され、標準的なタイルの寸法は約15cm角、厚さは約3cm、密度は0.14で、つまり80%程度は空気が含まれている軽石のようなもの。

 結晶ではなくガラス状の石英という点が重要であり、結晶石英は200℃付近で結晶変態(結晶の構造がクリスタロバイトに変化)を起こし、タイルが脆くなるので、技術者たちは純度99.7%以上の珪素砂をミネソタ州の鉱山から見つけてきた。ちなみに、石英の純度が低い場合は、耐熱温度が下がるという問題がある。

 石英ガラスファイバー層の上には、ホウ酸ケイ素ガラスでコーティングして太陽光からの熱を反射するようになっており、その上に飛行中の空気抵抗を抑えるように、耐水性ポリマーがコーティングしてある。また、すべてのタイルにはシリアルナンバーが表面に印刷、裏面に刻印されている。


 大気圏突入すると、シャトルの白い部分の温度は300℃を超えて、着陸直後でも200℃以上になっている ので、着陸後、機体表面が冷えるのを待ってから、宇宙飛行士は機体から降りる。


黒いタイル> HRSIタイル( 高温再使用可能表面断熱タイル ) ( High-Temperature Reusable Surface Insulation tiles )

 黒い部分は、白い断熱タイル上に、ホウ酸ケイ素ガラスに輻射熱を放出する黒色顔料(テトラボロン シリサイド、Tetraboron silicide, B4Si )を混ぜて、厚さ2-3mmにコーティングしたもので あり、黒いタイル表面に侵入する熱エネルギーの9割は、輻射熱、放射光として即時に外部空間に放出され、内部には1割の熱エネルギーしか伝わらないようになっており、機体のアルミ合金部分は最大で177℃以上にはならないようになっている。

 「断熱タイル」は初期の機体では、機体の約70%を占め、形状の異なる約3万4千種類のタイル( 複雑な形状の機体に合わせて作るために、一つとして同じ形状、厚みのものはないとされる。当然、タイル個々に設計図を作成しており、パソコンでタイル番号を入力すると、コンピュータ制御工作機が自動で切り出し、その後手作業によって黒い物質をスプレーして仕上げる。)で覆われており、後期のアトランティス号、エンデバー号あたりになると、断熱毛布の使用によってタイル数は2万6千個程度に減っている。

 断熱タイルはアルミ合金製の機体表面に耐熱ナイロン製のクッション材を通じて接着剤で固定されており、タイルは熱膨張及び内部金属製構造体の飛行中のねじれを計算して3ミリの隙間を設けて配置されており、その隙間にはセラミック繊維製板が挟みこまれている。

 タイルは、大気圏再突入の際に 、ある一定の温度を越えた場合、次回の打ち上げまでに交換する必要があるが、これまでは、その温度を越えたかどうかは分からず、一つ一つタイルを検査していた。そこで、最近のシャトルでは、タイルひとつひとつに無線タグと温度センサを組み合わせたものを取り付け、無線タグのデータから迅速にタイルを交換できるようにしている。

 3万4千個程度ある断熱タイルは、昔のデータによると、1個1000~5000ドル( 10万円から50万円 )程度であり、平均すると1回の飛行で30-100個の断熱レンガが交換されており、2009年から2010年にかけて約9000個のタイルが廃棄される見通しとなっている。2010年度のシャトル運用停止にともなって断熱タイルの廃棄、教育機関への配布が検討された際、石英ガラスファイバーの発ガン性も検討されたが、NASAの報告書によると発がん性はなく、目や肌に触れた時にかゆみが起こる程度との事。複雑な機体構造に一枚一枚貼り付ける構造なので、基本的にはタイル一枚一枚の形状は異なり、そのために機体ごとにタイル地図が作製されている。


機体との接着>

 断熱タイルは、高純度の酸化ケイ素繊維で作製されているので、大気圏突入時の1600℃に耐えるが、機体はアルミニウム合金で出来ているので200℃程度で機体が軟化してしまう。また、断熱タイルはほとんど熱膨張しないのに対して、アルミニウム合金は熱膨張するので、シャトル開発にあたってはタイルと機体との接着をどうするかが問題になった。それで、断熱タイルの裏面にフエルト状シートを挟み、接着剤にはシリコーン( 高分子有機シリコン化合物 )を使用してこの問題を解決した。 また、炭素繊維強化炭素複合材料( ccコンポジット )で作製されている部分( シャトルの灰色部品 )は、交換を容易にするためにボルト締めされている。


機体タイルの補修方法>

 シャトルの耐熱タイルの修理には187人が関わっており、小さなキズを発見すると、歯科用ドリルを用いて穴を開けて、詰め物をして硬化させ、磨くので、一つの修理には約3時間かかり、約40-60日間かけて修理している。タイルを取り外す際には、基本的には電熱線式のリムーバーを用いて切り出し、取り出したタイル穴にパテを埋めて、穴の形のコピーを作成し、断熱タイルの製造元であるロックウェル(ロックウェル社はボーイング社に吸収されたので、後期はボーイング社)社で、型を元にして、機体のねじれ、熱膨張を計算して3ミリのすきまが出来るようにタイルを作製する。


断熱ブランケット、断熱毛布> Flexible Insulation Blankets ( FIBs ) (柔軟な断熱毛布)

 初期のスペースシャトル(コロンビア、チャレンジャーぐらいまで)の機首部分の多くは白い「断熱タイル」で大部分が覆われていたが、打ち上げ時のタイルの損傷、脱落、剥離の反省から中期以降のシャトルでは「白い断熱タイル」は少なく、機体の軽量化を兼ねて「白い断熱ブランケット(布)」を採用している。 場所はペイロードハッチ、翼上面、胴体側面などで、後期のディスカバリーなどでは、コックピット周辺も断熱ブランケットに変更されていた。この布は、NOMEXと呼ばれる耐熱性ナイロン繊維のシートで、厚さは4mmから1.6cm。これらの形状は、単純なものから小さくて複雑なものまであり、部品によっては工場のおばあちゃん従業員がミシンで縫って仕上げていた。


耐熱部品(灰色の部品)> Reinforced Carbon-Carbon、「炭素繊維強化炭素複合材料」

 機体先端、翼先端の灰色の部分は、最も加熱される部分(大気圏突入時に、この灰色部品は1650℃に加熱される。)で炭素複合材料製の「耐熱部品」で出来ており、この部品には最高1600℃以上の温度とマッハ20程度の空気圧、及び機体自身から発生する衝撃波の負荷がかかる。

 この部品は、英語ではReinforced Carbon-Carbon、日本語では「炭素繊維強化炭素複合材料」と呼ばれ、炭素繊維製の部品にさらに炭素を染み込ませ、さらに大気中での酸化を防ぐために表面にはシリコン・カーバイト(SiC)の層がコーティングされている。また、シリコン・カーバイト層と炭素部分の熱膨張差によるクラックの発生を抑えるために、テトラエチル・シリケートをコーティングし、その上に空気抵抗を抑えるためにつやのあるオーバーコート材でコーティングしている。

 炭素繊維は1600℃になっても実用的な強度を維持するが、大気中では450℃以上で燃える。よって、炭素が燃えないように、シリコン・カーバイトでコーティングして炭素が酸素と接触するのを防止している。

 大気圏突入時に、この灰色部品は1650℃に加熱されるが、この熱が内部に侵入しないように、灰色部品の中にはセラミック・ファイバーで出来た毛布とシリカガラス・ファイバーが詰めてある。 これら灰色の部品は交換が容易なように、ボルトで機体に接合してある。


居住空間(クルーモジュール)>

 クルーモジュールは、外部から断熱及び気密確保のために、魔法瓶のように機体外殻から幅1m程度、中空(ここが真空か、何かの気体が詰まっているかは不明)に浮かぶような構造になっている。 そのせいでフロントガラス部分からの眺めは良好ではなく、むしろコックピット上部の天窓やペイロード側の窓の方が宇宙空間がよく見えるという。

 シャトルのクルーモジュール内部は、3階建てになっており、一階は空気清浄ユニットが詰まっているので入れない。人間が排出する二酸化炭素は一階の空気洗浄ユニットにて濾過し、人間が酸素濃度が60%以上では酸素中毒になるのでそれ以下になるようにコントロールされている。

 二階は居住空間で、スペースとしては6畳間ぐらいあるが、その半分程度は宇宙服(船外活動服)を着るための大きなエアロックがあるので、実質としては、横1.3m、幅3.3m、高さは2.1mであり、つまり6畳間の半分ぐらいのスペースに、トイレ、ベッド( 3段ベット1台、縦型ベッド1台 )、台所(電子レンジ、手洗い)がある。この程度のスペースは地上では狭く感じるが無重量空間では3次元で空間を使えるので、狭くは感じない らしい。宇宙空間でのやけどを防ぐ意味で、船内で使えるお湯は60-70℃に制限されており、宇宙用のカップラーメンも60℃程度で食べられるように工夫されており、船内電力事情が厳しいので電子レンジを使うのに30分ぐらいかかるらしい。

 三階は操縦席であり、固定式のパイロット席の空間を除くと、幅1.8m、横1m(畳1枚より少し大きい程度、大人3人分の肩幅ぐらい)のスペースしかない。打ち上げ時にはここに、シートが2つ設置され、宇宙空間に出ると、このシートを片付けてミッションスペシャリスト、ペイロードスペシャリストの作業場になる。また、パイロットシートも前に折りたたんで、ここで寝ることも出来るようになっている。

 これらの空間では、最大7人が、2週間程度生活することになる。打ち上げ、着陸時に、操縦席に座る4人以外の宇宙飛行士は、窓も計器もない2階席で、天井までそびえるロッカー(ここに食料、生活必需品がスポンジ製ケースに収めてある)を前にして座って過ごすことになる。 ちなみに、よくテレビで宇宙空間で宇宙飛行士が無重力状態で空中を回転したり、飛び回っている場面があるが、あれはスペースシャトルのコックピット、居住空間ではなく(=狭すぎて飛び回るスペースがない)、スペースラブ(シャトルに積んだ荷物としての宇宙実験室)、宇宙ステーションでの映像である。ただ、宇宙飛行士の映像では必ずこの場面が出てくるので、NASAでは「宇宙飛行士は遊んでばかりいる」と思われるのは心外で、当局としてはこのシーンは流して欲しくないと思っているらしい。

 スペースシャトルは、軌道上長期滞在(Extended Duration Orbit: EDO)キットと呼ばれる主に電力確保のための液体酸素と液体水素のタンクなどを取り付けることにより16~18日間までの飛行が可能。一番新しいスペースシャトルであるエンデバー号は、建造当初より最長28日間の長期飛行能力を有しているが長期間飛行するには、食料や、衣服などの搭載スペースを確保しなければならないほか、搭乗員の筋力や操縦能力の維持などの問題があり、長くても14~16日間が現実的。


スペースシャトルのトイレ・システム>

 打ち上げ時は、打ち上げの2時間前に搭乗し、上向きのシートに縛り付けられるので、この場合はトイレには行けず、事前に打ち上げ、着陸時のオレンジ色のフライトスーツ(通称パンプキンスーツ=打ち上げ、着陸時に宇宙船の気圧が低下した場合に備える、パラシュート装備)の下に「おむつ」をはいている。

 宇宙空間では、重力がほとんどないので、地上と同じようなトイレは出来ない。地上と同様におしっこすると、尿が狭いコックピット内を漂流し、宇宙飛行士がそれを吸引して肺に入ったり、操縦計器の内部に入ってショートする可能性がある。

 よって、スペースシャトルでは、宇宙空間用の特別なトイレが採用されている。使用方法としては、まず、トイレの扉を開き、このままでは、まだ外から丸見えなので、カーテンを閉める(上用と横用)。次に、トイレ中に体が浮かないように、足を軽く固定するとともに、ヒザ押さえで便座に体を固定し、手摺につかまる。

 「おしっこ」の場合は、男女それぞれの尿吸引アタッチメントに取り替えた上で、便器上部にあるハンドルを引くと、掃除機のホース状の機器が空気吸引を始め、それをあてがって尿を吸引する。

 「うんち」の場合は、ハンドルを引くと「便座直下のバルブ」が開き、空気吸引を開始するとともに便器内部のカッターが毎分1500回転で回転し、大便を瞬時に切り刻み、便器内部のタンク内壁に大便を貼付ける。その後、ハンドルをOFFにすると「便座直下のバルブ」は閉じ、「宇宙空間に通じているバルブ」が開いて便器内部は宇宙空間と同じ絶対真空にさらされて一瞬で凍結乾燥するようになっている。大便、嘔吐物は、このように乾燥状態にして地球に持って帰る。一方、尿、及び燃料電池で生成した水は飲用水、手洗いに使用された後、排水タンクで貯蔵した、数日ごとに宇宙空間に自動的に放出される。

 このトイレは、適切な使用が難しく、うんちが内部カッターまで届かないことがある。よって、宇宙飛行士は、事前に地上で、肛門のモニター映像を見ながら、何度も正確な場所(便座直下バルブ管の中心部)に「うんち」を落とす練習をさせられるらしい。

 このトイレの開発にあたっては、多くの女性看護士のボランティアが参加し、無重力体験用大型ジェット機がすぐに離陸できるようにスタンバイした上で、ボランティアにアイスティーを大量に飲んでもらって、一回約30秒の無重力状態下において数種類のトイレ試作品でおしっこやうんちをするテストを何百回もした。ちなみに、テレビでこの様子(ジェット機内で楽しそうに無重力状態で泳ぐ映像)が流されることがあるが、あれ(楽しそうに泳ぎ回る)は最初の数回だけで、実際にはその後(訓練では約50回無重力飛行を繰り返す)はほとんどの訓練生は飛行機酔い、及び他人の嘔吐物の臭いにつられて嘔吐し、機内には嘔吐物の臭いが充満するらしい。

 日本人は一日に0.4~2L、欧米人は~0.4Lのオナラをしており、オナラは可燃性ガスであるので、狭い宇宙船や宇宙ステーションに充満すると爆発の危険性があるので、NASAではオナラ対策で研究を進めている。


コンピュータ・システム>

 シャトルの操縦系統はコンピュータ制御のフライ・バイ・ワイヤと呼ばれるシステムであり、昔の飛行機のように、物理的に操縦輪とラダーがつながっているわけではない。操縦輪の操作は電気信号としてコンピュータで処理されてから、操作信号が駆動用モーターに伝わるようになっている。コンピュータは汎用でソフトも同じものが4台、バックアップ用として汎用の4台のコンピュータとはソフトも設計も異なるコンピュータ1台の計5台設置されており、これらのコンピュータが随時お互いの命令を監視しており、基本は汎用4台のコンピュータの結果の多数決によって判断している。汎用4台のコンピュータがすべて故障した場合には、バックアップ用コンピュータの指示によって動くようになっている。これら5台のコンピュータのうち、1台が故障しても安全に離陸でき、2台が故障しても安全に着陸できるようになっている。バックアップ用コンピュータは、汎用コンピュータ4台が故障した時にのみ稼動するようになっている。


シャトルの電力システム>

 シャトルには燃料電池が3基搭載されており、そこから全電力を得ている。シャトルの燃料電池は、水素と酸素を化学反応させることによって電力と水を得ることが可能であり、ここで生成された水は飲み水としても使える。燃料電池は、電気を貯めておいて放電する電池ではなく発電器の一種である。

 燃料となる酸素と水素は貨物室の下にある液体酸素タンクと液体水素タンクに貯蔵されており(=当然、これらを冷やしておくための冷却システムもある)、各燃料電池が生成する電力は、通常2kwから12kw(最大16kw)。燃料電池1基あたりの重量は約116kg、大きさは高さ約35.6cm、幅約38.1cm、長さ約1m。燃料電池から生成された水は、クルーの飲料等に使用するため飲料水タンクへ送られるが、使い切れない余分な水は船外へ排出される。


タイヤ、ホイール>

 シャトルのタイヤはミシュラン製で、様々な高度、温度に対応できるように、窒素が充填されており、メインギヤのタイヤ(直径44.5インチ(113cm)、幅16インチ(41cm))の空気圧は340気圧、ノーズギヤのタイヤ(直径32インチ(81cm)、幅8.8インチ(22cm))の空気圧は300気圧で、エックス線検査とNASA独自の検査をパスしてはじめてシャトルに搭載される。メインギヤ用タイヤは1回着陸したら交換され、ノーズギヤは2回着陸したら交換されるようになっている。スペースシャトルのタイヤはトラックのタイヤよりは大きくはないが、ボーイング747タイヤの3倍の荷重に耐えるとともに、時速250マイル(時速400km)のスピードに耐えるようになっており、要求される性能を備えた上で、究極に軽くなるように設計されていて費用は5540ドル(日本の感覚で言うと100-300万円)。着陸用車輪のホイールは軽くする必要から、チタン製で値段は30年前の値段で1本50万ドル(今の日本の貨幣価値にすると3億円程度)。


メインエンジン> スペースシャトル・メインエンジン(SSME, Space Shuttle Main Engines)

 シャトルのメインエンジンの燃料は液体水素と液体酸素を混ぜたもので、 毎分6.3万リットルの液体酸素と17万リットルの液体水素を消費し、エンジン1基あたり200トンの推力が出る。実際にはエンジンを3基積んで最大推力600トンを約8分30秒間発生させる。ちなみに固体ロケットブースターの推力は1本1200トン。シャトル(オービター本体)は、荷物を最大限に積んだ場合の重量は約100トンなので、燃料タンクなしならば、このエンジン1基で宇宙にいける計算になる。

 エンジン燃焼中の熱によってエンジンのジェットノズル(釣鐘状の部分)が溶ける、強度低下するのを予防するためにジェットノズルには全面に渡って液体水素が循環するパイプが設置されており、打ち上げの際にはエンジン付近に大気中の水分が凝結して氷が付いているのが見える。

 メインエンジンの寿命は約450分で、55回は繰り返し使えるように設計されており、推力は65-109%の範囲で可変可能。推力が100%を超えているのは、設計後に改良されてパワーアップしたから。また、飛行中の方向転換が出来るようにロケットエンジン自体を動かす( ジンバル機構、上下 10.5度、左右8.5度)ことが可能(固体ロケットブースターも可変可能)である。

 エンジンは予備燃焼室(プレバーナー)、と主燃焼室(メインバーナー)からなり、予備燃焼室でわざと不完全燃焼させた水素・酸素混合ガスで、高圧ターボポンプを駆動させて外部燃料タンクから液化水素、液化酸素を供給するとともに、不完全燃焼ガスを主燃焼室に送り込み、水素1と酸素6の割合で完全燃焼させて、音速以下の燃焼ガスを作製し、一度ガスを狭い流路に収束することで音速のスピードにした上で、ノズルを経由することによって超音速のガスにしている。


軌道操作システム> (OMS, Orbital Maneuvering System)

 シャトルのメインエンジン によって宇宙空間に出た後に、所定の高度までの移動を行うためのエンジンシステム。シャトル尾翼の両脇のコブの出た部分に、酸化剤と燃料のタンク、エンジンがある。酸化剤は四酸化窒素、燃料は有毒なモノメチル・ヒドラジンであり、この二つは混ぜ合わせるだけで爆発する性質があるため、ヘリウムタンクからヘリウムガスで燃料、酸化剤を押し出して混合することによって宇宙空間での一時的な推力を得ており、方向制御が可能なようにジンバル機構(ノズルの噴射方向が変えられる。)が設置されている。このシステムは10年、合計1000回の点火、のべ15時間の燃焼に耐えられるように設計されている。


姿勢制御システム> (RCS, Reaction Control System)

 宇宙空間及び大気圏突入時のシャトルの姿勢制御を行うために、シャトルの機首部分及び外部ポッド部分には、姿勢制御システムが設置してある。RCSシステムのエンジンには2種類あり、プライマリー・スラスター及びバーニア・スラスターと呼ばれている。プライマリー・スラスターは姿勢制御用で、推力は3870ニュートン、バーニア・スラスターの推力は111ニュートンで、微調整に使用される。基本的には宇宙空間のシャトルの姿勢はコンピュータが自動で調整するようになっている。シャトルには38基のプライマリースラスター、6基のバーニア・スラスター、合わせて44基の姿勢制御用エンジンがある。これらの燃料は、OMSと同じ酸化剤、燃料を使用してあり、RCS専用の酸化剤タンク、燃料タンク、ヘリウムタンクが設置してあるが、故障時に備えて、OMSと燃料を融通できるような設計になっている。


貨物用ドア、アーム>

 貨物を運ぶための空間(ペイロード)の扉(ハッチ)は、無重量空間である宇宙空間で開閉するためにあるので、地上で自力で開閉する能力は必要なく、そのために、軽量化を優先するために、出力の小さなモーターで構成されている。よって、地球上ではハッチを開閉するほどの出力はなく、簡単にいうと「地球上では自力でドアを開けることは出来ない」。同様に、荷物を動かすアームも、無重量(重さが0に近い)の荷物を動かすだけなので、地球上ではアーム自身を動かす事も難しいほど非力な仕様となっている。


尾翼、エンジン付近>

 機体後部下部には、外部燃料タンクからエンジンに燃料を通す蓋つきの大きな穴が2つあいており、中には猛烈な勢いで燃料を送るポンプがある。ここは、液体水素が漏れて水素爆発しないように、燃料充填と同時に不燃性の窒素ガスを充填するように気密構造になっている。 過去には、打ち上げ準備中に、整備員がこの区画に入って数名亡くなる事故も起きている。


6.1 スペースシャトル・オービター以外の構造、付属施設


固体燃料ロケットブースター> SRB; Solid Rocket Booster

 20回程度の再使用に耐えられるように設計されており、打ち上げ後は、内臓パラシュートによって海面に着水するように出来て おり、船で回収している。固体燃料ロケットブースターは粉末過塩素酸アンモニウム69.83%(酸化剤)と粉末の金属アルミニウム16%(燃料)、酸化鉄0.17%(触媒)を混合し、合成ゴム12%(PBAN、結合剤)、エポキシ硬化剤2%(結合剤)で固めたものを燃料としており、打ち上げから約2分間燃焼し、アルミ粉末の燃焼により、ブースターからは大量の白煙が噴出する。固体燃料ロケットブースター1本には527トンの固体燃料がセットされており、1200トンの推力を発生する とともに、ノズル部分は打ち上げ方向制御可能なように可動式になっている。 打ち上げ時には、このロケットブースターの後部スカート部(厚さ1.3-5cmの高張力アルミ板製)2本がスペースシャトルの全重量2000トンを支えており、シャトルのメインエンジンが順調に作動するとコンピュータが判断すると固体ロケットブースターの爆発式ボルトが破壊されて、固体ロケットブースターに点火されて打ち上げとなる。重量的には、2本の固体ロケットブースターが打ち上げ時の全重量の半分の重さがある。


外部燃料タンク> ET; External Tank

 シャトル本体のメインエンジンに、液体酸素と液体水素燃料 (燃料合計730トン)を供給するのが目的で、打ち上げの際にはホース(直径43.2センチメートル)で、シャトル底部とつながれている。タンク前部には液体酸素、後部には液体水素が充填されている。シャトル運行初期には、太陽熱による温度上昇を懸念して白色に塗装されていたが、効果は薄いことが判明し、取りやめになり、この結果、270kg軽くなった。打ち上げ後、タンクは大気圏突入時に大部分は燃えて無くなる様に設計されており、燃え尽きない部分はインド洋に落下していた。


クローラー、トランスポータ-( シャトル運搬車)>

 ロケット、燃料タンクをとりつけたシャトルは、クローラーと呼ばれる移動台に載せられて発射場まで移動し、クローラーの最高スピードは時速1マイル( 1.6km)であり、燃費が1m/Lという世界で最も燃費の悪い乗り物としても有名である。このクローラーの乗員は18人であり、移動に時間がかかるのでポータブルトイレも用意されており、発射台に近づく際にはレーザーを使用して位置あわせを行う。


シャトル用滑走路>

 シャトルは大気圏飛行用エンジンがないので、着陸のやり直しは出来ず、飛行場の天候を確かめて着陸する飛行場の近くまで接近した後に、”隕石が落下するように”急速に高度を下げる。着陸のやり直しは出来ないので、オーバーランに備えてケネディ宇宙センターには世界最長(オーバーラン部分も含めると全長5.2km)の滑走路が整備されている。大規模国際空港の滑走路が全長4km程度であることを考えるとかなり長いことが分かる。また、シャトルの高速着陸に耐えるために、コンクリート舗装は厚さ40cm、平坦性も100mで1.6mmの精度で建造されている。

                            以上。