ペロブスカイト型化合物 読本

 <ペロブスカイト型化合物 読本>

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 当ページは、最近、注目されているペロブスカイト型化合物の太陽電池、触媒は専門外なのでコメントしません。ここでは主に酸化物系の強誘電性ペロブスカイト化合物をメインに記述しており、それ以外のペロブスカイトについては、以下の参考文献をご参照下さい。

●特集 ペロブスカイト構造とセラミック誘電体材料 雑誌「セラミックス 1992年8月号」

●特集 ペロブスカイト型構造を持つ物質の新展開(1) 雑誌「セラミックス 2008年7月号」

●特集 ペロブスカイト型構造を持つ物質の新展開(2) 雑誌「セラミックス 2008年8月号」

●季刊化学総説「ペロブスカイト関連化合物 機能の宝庫」日本化学会編 学会出版センター

●ペロブスカイト系酸化物触媒 「希土類の材料技術ハンドブック」NTS

●特集 誘電体物理の新しい展開 固体物理 2000年9月号 アグネ技術センター

●特集 強誘電体とその同族物質 固体物理 1988年8月号 アグネ技術センター


まえがき>

 本ページでは、機能の宝庫と呼ばれているペロブスカイト化合物を記述しています。印刷すると13ページ程度になります。


<目次 >------------------

1 ペロブスカイト構造に関する参考文献

2 主要な結晶相と英語表記  

3 ペロブスカイト型結晶構造 

4 ペロブスカイト構造の種類   

5 複合ペロブスカイト

6 鉛系複合ペロブスカイトの合成の困難さ

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1 ペロブスカイト構造の参考文献


●特集 ペロブスカイト構造とセラミック誘導体材料 日本セラミックス協会、「セラミックス」、1992年8月号


●特集 ペロブスカイト型構造を持つ物質の新展開(1) セラミックス、2008年7月号

 >構造と化学結合が織り成すペロブスカイト型化合物の物性

 >新規ペロブスカイト型酸化物の合成

 >第一原理計算によるペロブスカイト型物質の設計

 >自己無撞着非調和理論を用いたペロブスカイト型誘電体の強誘電特性の解析

 >高エネルギー放射光粉末回折によるペロブスカイト型酸化物誘電体の構造物性

 >ペロブスカイト結晶の強誘電性相転移機構と格子振動モード

 >ペロブスカイト型酸化物イオン伝導体の現状と新しい展開

 >ペロブスカイト型リチウムイオン伝導性酸化物

 >層状ペロブスカイト銅酸化物超伝導体における固体化学的機能操作


●特集 ペロブスカイト型構造を持つ物質の新展開(2) セラミックス、2008年8月号


 >ペロブスカイト型強誘電体の最新

 >ペロブスカイト型マイクロ波誘電体の最新

 >希土類が関与するペロブスカイト型酸化物の示す反強磁性

 >新しいビスマス・鉛ペロブスカイトPbVO3, BiCoO3, BiNiO3

 >ペロブスカイト型構造人工・自然超格子におけるスピン制御とゆらぎ特性

 >ペロブスカイト構造酸化物の薄膜化技術の最新動向

 >様々なペロブスカイト型酸化物蛍光体

 >ペロブスカイト型圧電材料の最新

●季刊化学総説「ペロブスカイト関連化合物 機能の宝庫」日本化学会編 学会 出版センター

●ペロブスカイト系酸化物触媒 「希土類の材料技術ハンドブック」NTS

●特集 誘電体物理の新しい展開 固体物理 2000年9月号 アグネ技術センター

●特集 強誘電体とその同族物質 固体物理 1988年8月号 アグネ技術センター


 

2 主要な結晶相と英語表記

Cubic structure = 立方晶

Pseudo-cubic structure = 疑立方晶

Tetragonal structure = 正方晶

Rhombohedral structure = 菱面体晶 (三方晶)

Orthorhombic structure = 斜方晶

Monoclinic structure = 単斜晶


3 ペロブスカイト型結晶構造

 ペロブスカイトは、もともとはロシアの鉱物学者 Aleksevich von Perovskiにちなんで命名されたCaTiO3の鉱物名(和名 灰チタン石)であり、一般にABX3の結晶構造で表現される。物理分野ではペロスカイト構造ではなく伝統的にペロスカイト構造と表記されることが多い。

 代表的な化合物としては、BaTiO3などの酸化物であるが、KFeF3、CsAuCl3などの化合物もペロブスカイト化合物の仲間である。また、これらの単純ペロブスカイト(ABX3)の他に、欠陥ペロブスカイト、複合ペロブスカイトなどが存在し、これらの組み合わせによって理論的には無数の化合物、固溶体が存在するが、合成の困難さや機能性の面から現実にはおよそ数十の化合物しか利用されていないと考えられる。

 ペロブスカイト化合物については、セラミックコンデンサ(例えばBaTiO3など)や圧電・焦電セラミックスの主要な材料(例えばPZT (PbZrO3-PbTiO3)など)として知られているが、最近では燃料電池用の高温型プロトン伝導性酸化物(例えばSrCeO3, BaCeO3, CaZrO3,SrZrO3, BaZrO3など)としても注目されている。

 一般には、ABX3構造において、Aサイトの陽イオン(カチオンともいう、英語の発音はカタイオン)とXサイトの陰イオン(アニオンともいう)が同程度の大きさを有し、このAサイトとXサイトから構成される立方晶系単位格子の中にAサイトよりも小さなサイズの陽イオンがBサイトに位置する。

 BaTiO3を例にすると、AサイトのBa2+イオンは12個のO2-イオンに囲まれているので12配位、BサイトのTi4+イオンは、6個のO2-イオンから囲まれているので6配位をしており、このBサイトイオンが、TiO6八面体(オクタヘドラともいう)の中心に位置するのが理想であるが、通常は大きな局所電界を受けて八面体の中心位置から変位しており、この”Ba2+イオンのカゴ”の中で温度、電界に応じてTiO6オクタヘドラが適度に動くことによって様々な機能性が発揮される。逆に、このAサイトのカゴが大きすぎると、TiO6オクタヘドラが変位しすぎて、機能性が失われる。例えばチタン酸バリウムは室温では、約1%歪んでおり、室温で約1000~2000という大きな比誘電率を示すが、チタン酸鉛は室温では約6%歪んでいるから、約400程度の比誘電率しか示さない。これはTiO6オクタヘドラがPbイオンのカゴの中で歪みすぎた結果といえる。

 Shannonのイオン半径でいうと、Aサイトの12配位のBa2+イオンの半径は0.161nm、O2-は0.140nmであり、AサイトとXサイトのイオンサイズはほぼ近いことが分かる。ちなみにTi4+の6配位のイオン半径は0.0605nmである 

 一般に、ペロブスカイト構造が生成するかは、以下に示されるトレランス・ファクター(Tolerance factor, 許容係数、寛容性因子、騒乱因子とも呼ばれる)の値が理想的にはt=1であるが、0.75(0.8?)<t<1.1の範囲で成立することが経験的に知られている。


  ( Aサイトイオン半径 + Xサイトのイオン半径 ) = √2* t * ( Bサイトのイオン半径 + Xサイトのイオン半径 )

    (√2=1.414)

 ここで、t=0.9~1.1⇒ 立方型ペロブスカイト構造、t=0.9~0.75⇒斜方晶、単斜晶、正方晶、t=0.75以下では、歪過ぎてイルメナイト構造という別の結晶構造をとるとされる。ちなみに、ここで使用されるイオン半径はShannonのものが広く使用されている。ただし、これらの結晶形(結晶構造)は、温度、圧力、薄膜ならば基板の格子定数によって変化するので一つの目安でしかない。


< 様々なイオン半径 >------


イオン半径に関しては、現在までに大別して三種類が提案されており、それぞれ以下のような特徴がある。

○Goldschmidtのイオン半径...単純な構造を持つ酸化物とふっ化物を用いてX線回折を用いて測定を行い、実測値から求めたイオンのサイズ

○Paulingのイオン半径...イオン半径を有効核電荷の増大と関係づけ、その値を量子力学的に計算したもの。

○Shannonのイオン半径...多数の同型化合物の実測した単位格子体積とイオン半径の3乗に比例する関係と、イオン半径が配位数に依存することを考慮して配位数別に区別して表現したサイズ

出典:「工学のための無機化学」、サイエンス社(←この本はすごく分かりやすい)

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 大部分のペロブスカイト化合物は、室温では理想的な立方晶構造からわずかに歪んだ構造をしており、この適度な歪、いわゆる構造の非対称性が、ペロブスカイト型化合物が様々な機能を表す原因となっている。


4 ペロブスカイト構造の種類 

上記で述べたようにペロブスカイトには様々な種類、これらの固溶体が存在する。


< 単純ペロブスカイト構造 >

 ABX3という一般式で表される最もポピュラーな構造であり、様々なバリエーションがある。ここで、AイオンとBイオンの原子価は足して平均で3価になるような組み合わせでペロブスカイト構造が成立し、具体的にはA2+B4+O3、A1+B5+O3、A3+B3+O3などの組み合わせがある。   


<A2+B4+O3 型  2-4型固溶体>

基本形: BaTiO3が最も有名であり、この場合、単位格子にはAサイトはBa2+イオン、BサイトはTi4+イオン、O2-は3つあるから、電荷は合計6-で数が合う。

応用形: (Sr1-x, Bax)TiO3の場合、AサイトはSr2+, Ba2+、Bサイトは、Ti4+イオン。この場合、AサイトのSr2+をBa2+で置換したという。

応用形: PZTの場合、PbZrO3とPbTiO3の固溶体であるから、Pb(Zr1-x,Tix)O3 (ただしx=0~1)と表現することが可能でここでAサイトはPb2+、BサイトはZr4+、Ti4+イオン。この場合、Bサイトを置換したとも表現できる。

応用形: PBZTの場合、PZTにおけるPb2+イオンをBa2+イオンで置換する場合には、(Pb1-y, Bay)(Zr1-x, Tix)O3 (ただしx=0~1、y=0~1)

表現される。ここでAサイトはPb2+、Ba2+、BサイトはZr4+、Ti4+である。

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<A2+TiO3型ペロブスカイトにおいてA2+イオンが代わった場合のトレランス・ファクターの変化>

+2価で12配位をとるAサイトイオン 12配位でのシャノンのイオン半径 計算されるトレランス・ファクター

Cd2+ CdTiO3  室温で斜方晶) イルメナイト構造 0.107nm (Tc=-193?℃)     0.8712

Hg2+ HgTiO3?                        0.114nm  (Tc=?)       0.8959

Ca2+ CaTiO3  (室温で斜方晶、GdFeO3型化合物)   0.135nm (Tc=なし?)  0.9700

Sr2+ SrTiO3  (室温で立方晶)            0.140nm  (Tc=-163℃)  0.9877

Pb2+ PbTiO3 (室温で正方晶 c/a=1.06)      0.149nm  (Tc=490℃)  1.0194 

Ba2+ BaTiO3 (室温で正方晶 c/a=1.01)     0.161nm  (Tc=~130℃) 1.0617 


                 ( X+0.140 ) = 1.414 x t x ( 0.0605+0.140 )

O2- のイオン半径(シャノン)⇒  2配位 0.135nm、3配位0.136nm、4配位0.138nm、6配位0.140nm、8配位0.142nm

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<代表的なペロブスカイト化合物の結晶構造>

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組成 結晶系(室温)格子定数 a(nm) b(nm) c(nm) 空間群 単位胞中の分子数(z)

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BaTiO3  T         0.3994  -  0.4038  P4mm      1

PbTiO3  T          0.3899 -  0.4153  P4/mmm      1

PbZrO3  ?         0.8232 1.1776 0.5882 P2cb      8

Bi0.5Na0.5TiO3  R      0.5476(H)- 0.6778(H) ?      3

Bi0.5K0.5TiO3   T     0.3918  - 0.4013      ?     1

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T(正方晶系、tetoragonal system)、R(三方晶系、rhombohedral system)、C(立方晶系、cubic system)、H(六方晶系、hexagonal system)、M(単斜晶系、monoclinic system) 参考文献: 「実験化学講座(無機化合物)」、丸善


< A1+B5+O3 型  1-5型固溶体 >

基本形: KNbO3が(LaAlO3型化合物)有名であり、この場合、AサイトはK+、BサイトはNb5+イオン。ちなみに、LiNbO3は、Li+イオンが小さすぎるのでイルメナイト構造をとる。


< イルメナイト >(ilmenite, FeTiO3)型の結晶構造はコランダム型の変形として理解される。2つのカチオンの配置はランダムではなく、Fe2+とTi4+は最密充填の方向に一層ずつ交互に入っている。この構造をとる化合物にFeTiO3,MgTiO3,CoTiO3,NiTiO3,CdTiO3などがあり、いずれのカチオンも6配位で安定であるが、イオン半径が大きくなって6配位が不安定になると配位数が12のペロブスカイト構造をとるようになる。特にLiNbO3,LiTaO3などはイルメナイト構造であるが強誘電性を示すことで知られている。


参考文献 「結晶化学入門」 講談社

応用形: (K1-xNax)NbO3    AサイトをNa+で置換したパターン

応用形: K(Nb1-xTax)O3    BサイトをTa5+で置換したパターン

応用形: (K1-xNax)(Nb1-yTay)O3  AとBサイトをNa+とTa5+で置換したパターン

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<A+NbO3型ペロブスカイトにおいてAイオンが代わった場合のトレランス・ファクターの変化>


+1価で12配位Aサイトイオン  12配位シャノンのイオン半径   計算トレランス・ファクター

Li+(4配位と6配位しかとらない) 4配位=0.059nm 、6配位=0.074nm LiNbO3はイルメナイト構造

Na+(4配位と6配位しかとらない)     4配位=0.099nm 、6配位=0.102nm

K+  KNbO3               0.160nm   6配位=0.138nm   1.0400

Rb+  RbNbO3?             0.173nm               1.0851

Tl+ TlNbO3?            0.176nm

Cs+ CsNbO3?             0.188nm               1.1371

Ag+ AgNbO3  (6配位しかとらない)      6配位=0.115nm      

Nb5+ 6配位でのイオン半径 0.064nm   O2-     6配位でのイオン半径 0.140nm    

             (X+0.140) = 1.414 x t x (0.064+0.140) 


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< A3+B3+O3型  3-3型固溶体 >


基本形: よく研究されているのはBiFeO3でしょう。この場合、AサイトはBi3+イオン、BサイトはFe3+イオンです。

応用形:(Bi1-xLax)FeO3  合成可能かは不明ですが、AサイトをLa3+で置換したパターン  

応用形: Bi(Fe1-xScx)O3  合成可能かは不明ですが、BサイトをSc3+で置換したパターン

応用形: (Bi1-xLax)(Fe1-yScy)O3  合成可能かは不明ですが、AサイトをLa3+で、BサイトをSc3+で置換したパターン

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<A3+Sc3+O3型ペロブスカイトにおいてAイオンが代わった場合のトレランス・ファクターの変化>

+3価で12配位Aサイトイオン 12配位シャノンのイオン半径 計算トレランス・ファクター

Fe3+  L                0.055

Fe3+  H                0.064

Co3+  L                0.052

Co3+  H                0.061               

Gd3+                   0.094       0.7732

Pu3+                  0.100        0.7931

Ce3+                  0.101        0.7964

Bi3+                  0.102        0.7997

La3+                   0.132               

参考 Sc3+        6配位 0.074nm、 O2-  6配位でのイオン半径 0.140nm     

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<A2+B4+O3-A+B5+O3型固溶体、 A2+B4+O3-A3+B3+O3型固溶体、

 A+B5+O3-A3+B3+O3型固溶体>

 著者の経験及び文献によると、2-4型や1-5型のペロブスカイトであっても、Aサイト及びBサイトの電荷のバランスがペロブスカイトを構成する許容範囲内であれば、組成にもよるが、固溶体として単一相のペロブスカイトが得られる。例えば、筆者の経験によるとKNbO3(1-5型)にSrTiO3(2-4型)を固溶させていくと、50KNbO3-50SrTiO3でもペロブスカイトの単一相が得られる。しかし、NaNbO3やLiNbO3のように同じニオブ酸系でもAサイトのイオン半径が小さくなるにつれて、ペロブスカイト相を形成する固溶範囲は小さくなる傾向があり、これはAサイトのイオン半径が小さくなるにつれて、結晶格子が歪むことが原因していると考えられる。


<ペロブスカイト-A3+2/3B4+O3 型固溶体>

 固溶量は限られるが、例えばBaTiO3-Bi2/3TiO3というのも、BaTiO3がリッチな組成(例えば80%BT)ではペロブスカイト単相として得られる。これはBaTiO3が安定なペロブスカイトであるので、3価Biでもペロブスカイト格子中に存在する事が可能となる。ただし、BTの割合が小さい組成では、合成初期にBiとTiが反応して層状化合物が生成するので、ペロブスカイトの単一相は得られない。

 この場合、Bサイトは4価の化合物(Zrなど)もしくは平均で4価になればいいので、例えば(Mg1/3Nb2/3)でもペロブスカイトの単一相が得られる可能性はある。例えば、BaTiO3

-Bi2/3(Mg1/3Nb2/3)O3とか、BaTiO3-Bi2/3ZrO3とか、(Ba,Sr)(Ti,Zr)O3

-(Bi,La)2/3(Ni1/3Nb2/3)O3など。 

 ここで、AサイトあるいはBサイトのイオンを、それぞれ同価のイオンで置換して固溶体を得るには、イオン半径が置換しようとするイオン半径と近いイオンの構造(電子配置)が似ていて同じ配位数をとることが重要である。そうでない場合には、置換イオンの量がある限度を超えると、限度を超えた分はペロブスカイト構造とは異なる結晶を作るようになり、結晶はペロブスカイトと他の構造のものが混合したものになり、これを混晶(mixed crystal)という。

 同価でない陽イオンで置換して固溶体を作ろうとすると、結晶全体の電気的中性を保つために、次のような場合が起こる場合がある。 陽イオンまたは酸素イオンが抜けて電気的中性を保ち、その位置に空所(Vacancy)を生ずる。この時、結晶は絶縁体になる??。

 陽イオンの原子価が変化して中性を保つ。例えば、4価のTiイオン(Ti原子から4つの電子がとれた状態)に余分の電子が捕らえられて、3価のイオンとなる。この時、捕らえられた電子がTi4+の間を移動するので結晶は半導体となる。

参考文献 「強誘電性と高温超伝導」、日本材料科学会編、裳華房


< 欠陥ペロブスカイト構造 >

いづれ勉強します。

< 層状ペロブスカイト >

いづれ勉強します。

< ダブルペロブスカイト >

いづれ勉強します。


5 複合ペロブスカイト 

 ペロブスカイト構造については、BaTiO3のような典型的な構造の他に、構成元素の条件が合えば、場合によっては複雑なペロブスカイトが生成することが知られている。このような複雑なペロブスカイトは複合ペロブスカイト( complex perovskite structure )と呼ばれている。

 例えば、以下のように構成元素の電荷の条件が合えばペロブスカイト構造を取ることが知られている。

< 複合ペロブスカイトの一般式 > 

具体的な化合物例

A2+(B2+1/3B5+2/3)O3    Pb(Ni1/3Nb2/3)O3, Ba(Ni1/3Nb2/3)O3

A2+(B3+1/2B5+1/2)O3    Pb(Sc1/2Nb1/2)O3

A2+(B2+1/2B6+1/2)O3

A2+(B3+2/3B6+1/3)O3

A2+(B1+1/4B5+3/4)O3

(A1+1/2B3+1/2)B4+O3    

(Li1/2Bi1/2)TiO3, (Na1/2Bi1/2)TiO3,

(K1/2Bi1/2)TiO3, (Ag1/2Bi1/2)TiO3など


A3+(B2+1/2B4+1/2)O3     

Bi(Mg1/2Ti1/2)O3, Bi(Zn1/2Ti1/2)O3,

Bi(Ni1/2Ti1/2)O3, (Bi,La)(Mg1/2Ti1/2)O3


< 複合-複合 ? ペロブスカイト >

(A1+1/2A3+1/2)(B2+1/3B5+2/3)O3  (Na1/2Bi1/2)(Mg1/3Nb2/3)O3 など

ここでA及びBには、

A1+ = Li, Na, K, Ag   A2+=Pb, Ba, Sr, Ca  A3+= Bi, La, Ce, Nd   B1+= Li, Cu B2+=Mg, Ni, Zn, Co, Sn, Fe, Cd, Cu, Cr

B3+= Mn, Sb, Al, Yb, In, Fe, Co, Sc, Y, Sn  B4+= Ti, Zr  B5+= Nb, Sb, Ta, Bi  

B6+= W, Te, Re といった元素が入る。

 これらの複合ペロブスカイト型化合物については、誘電特性における温度依存性の特徴から緩和型(リラクサ(Relaxor)とも呼ばれている), 規則型, 緩和と規則型の中間型の三種類に大別される。一般に、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3といったBサイトイオンが1/3と2/3の組み合わせになっているものは緩和型、Pb(Sc1/2Nb1/2)O3のようにBサイトイオンが1/2と1/2の組み合わせの化合物は、規則型の誘電特性を示す場合が多い。また、熱処理条件によって散漫型を示したり、規則型に変化したりする中間型も存在する。

 特に、リラクサは、緩和型の誘電特性 ”dielectric relaxation” を示すことから最近、無機系圧電材料(セラミックス、単結晶)の分野で注目されている。PbTiO3やBaTiO3といった通常の規則型誘電体が、キュリー温度で鋭い比誘電率のピークを示すのに対して、リラクサは散漫な比誘電率カーブを示すのが特徴であり、誘電率曲線が規則型化合物と比較すると「リラックスしている様に見える」事からこの名がついたと聞いている。

 ここでは、鉛系複合ペロブスカイト型化合物について限定する。鉛系では、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3(PMN)が関係した固溶体に関する研究が圧倒的に多く報告されている。例えばPMN-PbTiO3やPMN-PZTに関するものである。この理由としては、PMNは、リラクサーの中では、比較的キュリー温度が高い(-10℃)、Mgは比較的安価である、研究例が多い、合成も比較的容易というのが主因であり、その他のリラクサー系セラミックスでは単独で高純度のものを合成することが難しい、化合物に関する研究論文が少ない、キュリー温度が低い等が原因である。


< Pb系複合ペロブスカイト化合物の合成における問題と一般に用いられている合成法 >

  純粋なリラクサ化合物が得られにくい原因としては、これらの化合物の構成元素が多いために合成中に副生成物が生成しやすく、また、大気中での燒結において成分中のPbOが揮発しやすいことが原因である。

 例えば、典型的な誘電材料であるBaTiO3については、BaCO3とTiO2粉末を混合し、熱処理(仮焼)を繰り返すと高純度の化合物の合成が可能である。

 一方、代表的なリラクサであるPMNでは、合成の初期段階でPbOとNb2O5が先に反応してパイロクロア化合物が生成し、これがゆっくりとMgOと反応することによって合成されるとされているが(PbO-Nb2O5系パイロクロア相→PbO-MgO-Nb2O5系パイロクロア相→PMNペロブスカイト相の順で生成)、通常の合成方法(固相反応)では、固体中のイオンの移動度が小さいために、有限の時間枠では合成物にパイロクロア化合物(相)がどうしても残ってしまう。

 そこで、この問題を解決するために以下に示す合成方法が現在までに提案されており、この合成方法を用いるとほとんどのリラクサは合成できるようになっている。この方法は、コロンバイト化合物を経由することから”コロンバイト法”と呼ばれ、鉛系複合ペロブスカイト型化合物の合成において一般に用いられている。(ただし、全ての化合物がこの方法で出来るわけではなく、物質によってはWolframite法、フラックス法その他でしか出来ないのもある。)

原料: PbO,MgO,Nb2O5粉末

第一段階: MgO+Nb2O5  -熱処理→ MgNb2O6(コロンバイト型化合物)

第二段階: MgNb2O6+3PbO -熱処理→ 3PbO・MgO・Nb2O5 (PMN)

  以下に、私が調べた通常のセラミック合成プロセスで合成した場合の鉛系複合ペロブスカイト型化合物の”合成の困難度”について紹介する。


6 Pb系複合ペロブスカイト型化合物の種類と性質、及び通常のセラミック合成プロセスによる合成の困難度

  一般に科学論文では「合成出来なかった」というネガティブな事実を書くことは少ない。よって、鉛系複合ペロブスカイトの合成の困難さについて調べた結果を示す。(存在がはっきりしない物質を含む)

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物質名(略称)結晶構造 誘電率が最も高く温度 ペロブスカイト相の収率(%)備考


         (室温)なる温度(Tmax)(℃)(化学量論組成を900℃で5時間

 (1KHzでの値)     仮焼を繰り返した後の収率)


一回目   二回目----------------------------

Pb(Mg1/3Nb2/3)O3 (PMN)   PC    -8    47% → 50%    F

Pb(Mg1/3Ta2/3)O3 (PMTa)   PC   -98    45% → 53%    F

Pb(Mg1/2W1/2)O3 (PMW)   O   39     98% → 98%    AF

Pb(Ni1/3Nb2/3)O3 (PNN)   PC   -150   47% → 53%    F   

Pb(Ni1/3Ta2/3)O3 (PNTa)   PC   -180   0% → 0%    F  

Pb(Ni1/2W1/2)O3 (PNW)    ?   -3    0% → 0%  AF 合成高圧必要

Pb(Zn1/3Nb2/3)O3 (PZN)   R   140    0% → 0%      F

Pb(Zn1/3Ta2/3)O3 (PZTa)    ?         0% → 0%

Pb(Zn1/2W1/2)O3 (PZW)   Py  110~120 50?% → 50?% AF 半融状態

Pb(Sc1/2Nb1/2)O3 (PScN)   R    90   96% → 98%      F 

Pb(Sc1/2Ta1/2)O3 (PScTa)   R    26   85% → 88%      F

PbScW?        (PScW)  ?        化合物が存在するのか不明

Pb(Cd1/3Nb2/3)O3 (PCdN)   PC   270  90% → 48% F 明らかに分解

Pb(Cd1/3Ta2/3)O3 (PCdT)   Py       0% → 0%

Pb(Cd1/2W1/2)O3 (PCdW)   M  400  100% → 100% AF 軽く焼きしまる

Pb(Mn1/3Nb2/3)O3 (PMnN)  PC      38% → 35%   

Pb(Mn1/3Ta2/3)O3 (PMnTa)  R      32% → 27%     分解気味

Pb(Mn1/2W1/2)O3 (PMnW)   M   200  0%        AF  溶融

Pb(Co1/3Nb2/3)O3 (PCoN)   M   -70   66% → 70%     F  

Pb(Co1/3Ta2/3)O3 (PCoTa)   PC  -140   64% → 62%     F

Pb(Co1/2W1/2)O3 (PCoW)   O   32  80?% → 90?% AF  半融状態

Pb(Fe1/2Nb1/2)O3 (PFN)   R  112   96% → 98%     F

Pb(Fe1/2Ta1/2)O3 (PFTa)    R  -30   86% → 88%     F

Pb(Fe2/3W1/3)O3  (PFW)   C  -90  95% → 97%     F

Pb(Cu1/3Nb2/3)O3? (PCuN)   ?     0% → 0%

Pb(Yb1/2Nb1/2)O3 (PYbN)   M  280  99% → 99%     AF

Pb(Yb1/2Ta1/2)O3 (PYbTa)   M   280  88% → 92%      AF

Pb(Yb1/2W1/2)O3? (PYbW)     ?          まだやっていない

Pb(Ho1/2Nb1/2)O3 (PHoN)   M  240   12%→17% 

Pb(Ho1/2Ta1/2)O3 (PHoTa)   ?     38%→10%    明らかに分解

Pb(Ho1/2W1/2)O3? (PHoW)   ?           まだやっていない

Pb(In1/2Nb1/2)O3 (PInN)   M  90    12%→14% 

Pb(In1/2Ta1/2)O3 (PInTa)    Py       10%→10%

Pb(In1/2W1/2)O3? (PInW)    ?        まだやっていない

Pb(Lu1/2Nb1/2)O3 (PLuN)   M   258  まだやっていない  AF 

Pb(Lu1/2Ta1/2)O3 (PLuTa)   M         まだやっていない

Pb(Lu1/2W1/2)O3? (PLuW)   ?         まだやっていない

Pb(Er1/2Nb1/2)O3 (PErN)    O

Pb(Er1/2Ta1/2)O3 (PErT)    ? 

Pb(Sb1/2Nb1/2)O3 (PSbN)   Py? ? 結晶系がPyと仮定すると100%→100%

Pb(Sb1/2Ta1/2)O3 (PSbT)    Py  ? 結晶系がPyと仮定すると100%→100%

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 結晶構造:R (rhombohedral、菱面体晶), T (tetragonal、正方晶), PC (pseudocubic、疑立方晶), M (monoclinic、単斜晶), O (orthorhombic、斜方晶, Py (pyrochlore、パイロクロア化合物), C(cubic、立方晶)

 備考:F(強誘電体)、AF(反強誘電体)